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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後4年目
527/1297

527 星暦555年 紫の月 2日 確認作業は重要です(6)

>>サイド ジャレット・デヴァナン


「新しい麻薬、ですか・・・」

思わず頭を抱えた。


昨日、空から麻薬の栽培畑を見つけた上でこちらに連絡して、警備隊と連携して売人の逮捕にまで協力してくれた3人組がクッキーに手を伸ばしながらあっさりと頷いた。


「私もウィルも警備隊のザクリーも聞いたことがない麻薬なので、アファル王国にとっては新規の麻薬と言って良いでしょうね。

どうも東の大陸では雑草同然に育つらしいのですが、湿気ると一気に効果が下がるとかでアファル王国まで輸送するにはイマイチ適していなかったらしいです。

新しい航路が出来たことでここで栽培してついでに本国まで持って行けたら大儲けだと新興組織が販路を拡大しようと頑張っていたらしいです」

アレクがサンプルらしき葉を机の上に置きながら説明した。


どこもかしこも新規交易路開拓には熱心なことで・・・。


「麻薬にしては中毒性が低いし体への悪影響も比較的少ないらしいので、現時点で供給を絶てば特に長期的な影響は無いと思う。

ただ、麻薬であることには変わりはないから・・・。

定期的に島の上空から似たような輩が栽培を始めていないか確認した上で、船の貨物の抜き打ち検査もやった方が無難かも」

ウィルが肩を竦めながら付け加えた。


麻薬の恐ろしい所は、依存した人間の価値観の崩壊だ。

誠実で真面目な人間でも、麻薬に嵌まるとその習慣を続けるために嘘をつき、盗みを働くようになる。


というか、下手をすると真面目で責任感の強い人間ほど、『ちょっと息を抜いてリラックス出来る』という言葉に騙されて麻薬に嵌まった場合に抜け出せなくって足掻く羽目になるのを今までにも見てきた。


商業省ほど露骨では無いにせよ、国土省だってそれなりに競争は激しく、上に登り詰めた者と下でこき使われるだけの者との間の栄達の差は激しい。

その競争に疲れ果てて麻薬に手を出し、破滅した元同僚を自分も何人も見た。


酷い場合には開発許可を得たい貴族に真面目な役人が騙されて麻薬漬けにされて身を持ち崩した事すらあった。

幾らその貴族が捕まって罰せられようが、麻薬に蝕まれた身体も精神も、元には戻らない。


『気分が楽になる、無害な酒や薬なんて存在しない。

家族もキャリアも何もかもを捨てるつもりがなければ、『楽になる』物は毒だと理解して用心しろ』

というのがアファル王国の政府で役職に就いた人間が最初に受ける研修で習う教えだ。


国土省の場合は開発関係で今回のような勝手に麻薬を栽培して売りさばこうとするケースに行き当たることがあるので、更に詳しく麻薬中毒者や麻薬犯罪に協力した罪で鉱山での強制労働になった者の無残な結末を研修の一環として見せつけられたのだが・・・実際に自分に関係してくるとは、正直なところ思っていなかった。


人ごとだと思っていたら自分が責任を負っている島で栽培が始まっていたなんて。

「頭が痛い・・・」


「この麻薬って鎮痛薬としては中々悪くないとラフェーンが言っているので、医療省の方にサンプルを渡しても良いかもしれませんね。

本国で育てられるかは微妙ですが。

まあ、直轄領で医療省の厳密な管理の下に育てるというのも悪くないですけど、下手をすると変な利権が生まれてしまって怖いかも」

小さく首を傾げながらアレクが提案した。

最後の一言がちょっとどころで無く怖かったが。


この有能な商人兼魔術師が『怖い』という案件なぞ、手を出したくないぞ!!!

いくらユニコーンのお墨付きな鎮痛剤だとしても、自分の責任下になるところで麻薬に関わりたくない。


「折角港町が小さいんです。

麻薬の臭いを憶えさせた犬を何匹か飼って、貨物チェックだけで無く街の巡回にも連れて歩けば良いんじゃないですか?」

シャルロがクッキーのお代わりに手を伸ばしながら提案した。


ふむ。

犬か。

悪くないかも知れない。

ハンドラーも何人か使って『1人買収すればごまかせる』という状況が起きないようにすれば、まだまだ小さなこの港町ならば麻薬を持ち歩いていたら見つけられる可能性は高い。


うむ。

これは本国に要請する価値はありそうだ。

「色々とありがとう。

早速本国に報告して麻薬犬の要請を出しておくよ。

医療用の使用に関しては・・・取り敢えず、ここの開発が終わって私が本国に帰る時までは留保しておくから、出来れば君たちもこの話を本国で広めないでくれると助かる」


本国からの管轄が多数の省に跨がると、怪しげな利権がすり抜けることがある。

ただでさえ国土省と商業省の交渉がデリケートなのに、それに更に医療省なんぞ入ってきたら目も当てられない。


あそこは大したことはやっていないくせに、偶にとんでもない権力者の家族に恩を売っていたりすることがあるからな・・・。


「了解です」

にっこり笑いながらシャルロが答えた。

残りの2人もクッキーに手を伸ばしながら頷いた。


ふと見ると、絶対に余るだろうと思って後で食べるのを楽しみにした妻自慢のクッキーは一欠片も残っていなかった。

頼み事をした瞬間に最後の一欠片まで取られてしまったというのは、賄賂相当の扱いなのだろうか?


しょうがない。

また焼いてくれと妻におねだりしよう。

最近は腹回りの脂肪も少し減ってきたし、今回は殆ど食べられなかったのだから、お代わりの要請は受理される・・・と思いたい。


ちなみに、アレクとウィルがクッキーの最後の残りに手を伸ばしたのはもうそろそろ話が終わるから席を立つことになると思ったからです。

別に賄賂として受け取ったつもりはありませんw

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