525 星暦555年 赤の月 30日 確認作業は重要です(4)
「売上は良い感じに上がっていますし、パストン島に寄港する船の数も順調に増えています」
シェフィート商会の支店長のアイザードがお茶を出しながらパストン島の発展状況について話してくれた。
「が?
通信機では何か気になることがあるようなことを言っていたね」
アレクがお茶を受け取りながら尋ねる。
おや。
長閑な田舎の島なここでも問題があるのか。
ライバル商会の話だったら俺達がいるところで態々話題に載せるとは思えないから、海賊でも出るのかね?
シェフィート商会の船が襲われなくても、パストン島に行くルートで海賊が出るという噂が立ったらここに来る船が減ってしまうだろう。
・・・とは言え、そんな海賊がいたらさっさとアレグ島の軍艦が出てきそうなものだが。
アイザードが顔をしかめた。
「どうも緩い麻薬の様な物の流通が増えてきているようなのです。
船が入港すると船乗り相手に売人が商売をするせいで流通量が増えるのですが、入荷している船や勢力がはっきりしなくって・・・」
麻薬ねぇ。
あれは人の価値観を狂わせる上に体を壊し、最終的には周りまで巻き込んで滅茶苦茶にしかねないから危険だ。
アファル王国の本土だったらかなり厳しく取り締まりしているのだが、新しく開拓されているパストン島ではまだ取り締まるだけの人員がいないのだろうか。
・・・とは言え、それ程麻薬に金を掛けられるだけの資金的余裕が住民なり寄港する船員にあるとも思えないが。
「なんていう麻薬?
そこそこの頻度で来ているようなら、ここに僕たちがいる間に蒼流にそれを運んでいる船を見つけてもらってその販売網を潰せるかも」
シャルロがアイザードに尋ねた。
蒼流は麻薬が船に乗っていたら分かるんか??
まあ、蒼流の能力はでたらめだからなぁ。
もしかしたら風の精霊に頼んで麻薬の臭いの付いた船を見つけて貰うのかも知れないが。
「本国ではあまり聞かないタイプの麻薬で、基本的には薬味のように乾かして砕いた葉を食べ物や飲み物に混ぜて口にすると気分が良くなるようですね。
更に嵌まるとそれをパイプに入れて煙草のように吸うようです。
取り敢えず、露骨に禁断症状を示しているような人間はまだ出てきていないようですが、一部の港に居る人間の消費行動に異常が出てきています」
アイザードが箱から薬味のような砕かれた乾燥した葉の様な物を出して見せながら答えた。
・・・本国で見ない葉っぱタイプの麻薬ねぇ。
「もしかして、それって他から入荷しているんじゃなくってパストン島のどこかで秘密に栽培しているんじゃ無いか?
さっきアレクが帳簿を調べている間にジャレットと話していたんだが、どうも最近防壁の外へ農作業の手伝いとして出ている人間の数と、実際に働いて支払を受けている人数が一致していないようなんだ」
ジャレットは他の国の勢力が勝手に拠点を作ろうとしているのでは無いかと心配していたが、この島は船が上陸するのに適した場所があまりない。
まあ、一次的に上陸して、拠点の人間と連動して港を攻め込んで島を占領するというのは有りかも知れないが・・・ガルカ王国が潰れた今となってはそこまで敵対的な行為をしたがる国があるのかは微妙だ。
ザルガ共和国はもっと搦め手で来るらしいし。
しかも、数日で船が来れる距離にアファル王国が軍事基地として使っているアレグ島があるのだ。
どう考えても、日帰りで出来る範囲の拠点程度でどうにかできる話では無いと思う。
だが、麻薬を育てていると言うのだったら話は変わる。
問題の麻薬がどの位早く育つのかは知らないが、南国タイプの植物だったら毎日の栽培に掛る時間はそこまで多くないだろう。
まだ島に居る人口だって少ないから、販売量だってたかが知れているだろうし。
大々的に収穫量を増やすつもりならばそれこそ拠点を別に作るかも知れないが。
・・・と言うか、大々的にやるつもりだったら一通り開拓が終わって、ジャレットのような真面目な開拓監督者が島を離れ、補給島の代官が島の責任者になった時点でそいつを買収して一緒に麻薬栽培と販売の商売を始めるのが一番だろうな。
補給島の代官だったらそこまで出世頭という訳では無いから買収しやすいだろうし、買収できなかった場合でも本国からかなり離れた島だから、あまり知られない病気にかかって本国に戻る羽目になっても不思議はない。
「僕たちの島で麻薬を育てるなんて、許せないね。
明日は早く起きて、空から空滑機で港町の外へ出る人間を見張ろう」
シャルロがむっとしたようにクッキーを手に取って割りながら、提案した。
そうだな。
折角屋敷船に空滑機も乗せてきたのだ。
街を出た人間を足でつけるよりも、上空高くから空滑機で見張った方が確実だろう。
俺達の島で麻薬を栽培するなんて、絶対に許さん。
まあ、この時点ではまだ麻薬を育てているかどうかは確定していないんですけどね。