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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後4年目
521/1297

521 星暦555年 赤の月 20日 汚染(9)

「へぇぇ。

これが魔獣化したドブネズミなんだ」

取り敢えず今回の騒動が収まったので、年初に北部の遺跡から帰ってきた後に直ぐにヴァルージャに向かう羽目になったシェイラが王都に戻ってきた。

今回の事件の話をちょこちょこ通信機で説明されていたシェイラが魔獣化したドブネズミに興味を持って『見たい!!』と言ったので、魔術院で飼っているのを特別に見せることになった。


一般市民には隣国から輸入された木炭が悪魔汚染されていたせいでドブネズミが魔獣化したなんて話は広められていないのだが、召喚を行う魔術師や浄化を行う神官に見せるために魔術院で先日捕まえたのが飼われているのだ。


ドブネズミなので寿命はそれ程長くないだろうから、死んだら標本として剥製にするか、それとも単に映像を魔具で保存しておけば良いかは神殿と魔術院の上層部で現在話し合い中らしい。


加害者や当事者になりかねない魔術師や神官が魔獣化した小動物がどんな感じになるのかを直に見るのは良い経験だと言う点では皆が合意しているらしいのだが、流石に参考に見せるためだけに魔獣化したネズミを繁殖する訳にはいかないので、どうするのが一番臨場感のある形で記録できるかで揉めているらしい。


取り敢えず今は元気に敵意むき出しで籠の中から牙を剥いているので、王都の魔術師や神殿の人間で魔獣を見たことが無い人間は見るようにと通達が来ている。

魔術学院の生徒にも見せるのかなぁ?


見せる意義はあるとは思うが、まだ子供である学生に見せたらあっという間に家族を通して話が広まるだろうなぁ。

まあ、そこら辺もお偉いさんが考えているだろう。


シェイラに関しては、特別に許可を貰った。

彼女とのデートの内容としては微妙な気がするが・・・シェイラが興味を持ったし、ある意味遺跡というのも下手をすれば魔獣化した生き物が出てくる可能性がある。


学生時代にシャルロの祖母の領地の遺跡で俺達が遭遇した、地下から出てきた大量の虫(多分)の群れだって、あそこで殺された囚人達の恨みで多少魔獣化・・・とまでは言わないけれども変な感じに影響を受けていたと思うし。


遺跡によってはそれこそ魔獣や悪魔に襲われて破棄された場所だってあるだろうから、そう言う遺跡で育った小動物や虫が魔獣化している可能性は十分にある。


魔獣化すると凶暴になるだけで無く、変な毒をもったりする事もある。

そう考えると、何に襲われたのかをちゃんと認識できるようにサンプルを見ておくのは良いことだ。


だからねぇ。

本当は歴史学会の人達にもこの魔獣化したドブネズミを見せた方が良いのかも知れないが・・・学者バカ達って『これは機密事項だから』と言ってもうっかり話しそうだし、話さないタイプは魔獣化した生き物の事なんてすっかり忘れそうだからなぁ。


アンディ経由で魔術院の長老の方に『歴史学会の人間にも見せては?』と一応提案してみたのだが、あっさり却下されたんだよね。


シェイラだけは俺への個人的な報酬の一部みたいな感じで見せることが許可されたんだけど。


魔術院を出て、周りを見回したシェイラが首を傾げた。

「何か王都がキラキラ輝いて見えるんだけど、気のせい??」


「俺にとっては暫く薄暗かった変な空気が消えたんで綺麗になったように視えるんだが、シェイラが言っているのは壁とかが蒼流の丸洗いで一気に汚れが落ちて綺麗になったからじゃないか?

汚染された木炭から出た灰や煤を蒼流が洗い流して一気に集めて、学院長の火精霊に焼き尽くして浄化して貰ったんだけど、灰や煤と泥や埃を分けて落としたりしてないからな。

要は蒼流が基本的に汚れを全部洗い流したから、王都は今までに無いぐらい清潔な状態になっているんだと思うぜ」

まあ、これだけの人数が暮しているのだ。

今は冬だから暖炉から木炭や薪を燃やした煤が出てきているし。

暫くしたらまた汚れるだろうな。


「思いがけない効果ってやつね。

この分なら、王太子の結婚式の時ぐらいまでは綺麗なままで残ってるかも?

あまりにも埃っぽくて汚れてきちゃったら、王宮の役人がシャルロに丸洗いの依頼をしたりして」

笑いながらシェイラが言った。


・・・。

確かに。

蒼流に頼めば、丸洗いだけでなく、式典の日に雨が振らないようにすることだって可能だろう。


まあ、普通の魔術師にそれを頼もうと思ったらそれこそアファル王国の魔術院のメンバー全員が協力しなければならないような大事になるから、幾ら蒼流なら簡単にできると言っても流石に気軽には頼まない・・・よな?


「王太子の結婚式の式典関係の役人に今回の騒動の詳細が流れているか否かで依頼が来るか、変わるかもな。

まあ、雨を避けるために態々暑くても晴れの多い夏に結婚式をやるんだろ?

無理に変な前例を作る必要も無いんじゃね?」

シャルロが生きている間は本人に頼めば気軽にやってくれるかも知れないが、シャルロが居なければ同一の効果を得るのは並大抵のことでは出来ない。


そうなると次世代(・・・の次くらいかな?)の王族の結婚式の際に魔術師総動員なんてことになりかねない。


まあ、結局今回の騒動でもそれなりの報酬がシャルロと学院長に払われたんだから、役人も変な事をやってただでさえ厳しい予算の制約を更に厳しくする訳は無いよな?


そう考えると、シャルロへ報酬があれだけ高かったのも納得だ。

本人がどれ程大変な思いをするかで支払額が決まるのでは無く、他の手段で代替した場合にどの位費用が掛るかで大体の金額が決まり、それなりに楽なんだったらちょっと減額といった所なのだろう。


「確かに。

まあ、王太子は偶然自分の結婚式のある年にこんな騒動があって、それが大事になる前に解決された上に王都が綺麗になって、本当にご自分の幸運に感謝しなくちゃという感じね」

シェイラが頷いた。


考えてみたら、今年は王太子の結婚式が夏にはある予定だったのだ。

その頃に魔獣化したネズミが大発生していたりしたら、不吉すぎて話にならんところだった。


・・・本当に、誰も今回の事件を狙って引き起こしたんじゃ無いのかね?

魔獣化したネズミの大発生なんて、王太子の結婚式を延期させる良い口実になりそうだけど。



実は黒幕は王太子妃の地位を狙うアファル王国の貴族だった?!

なんてことをちらっとウィルは考えていますが、取り敢えずそんなことはない・・・はず。

今回の騒動はこれで終わりです。


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