514 星暦555年 藤の月 30日 汚染(2)
「ここ1月の間に、何か今までに無かった問い合わせとか苦情って来てないか?」
まずは魔術師の方が何かに気が付いた、もしくは何とかしろと話が来る可能性が高いと思って魔術院に戻ってアンディに尋ねてみた。
「変な問い合わせとか苦情?
年初のパーティで魔術師が酔っ払って変な術を放っちまった事に関する苦情以外、特に耳には入ってないが・・・」
首を傾げながらアンディが答えた。
まあ、普段よりも王都の空気がほこりっぽいって住民が思ってもそれに関して魔術院に相談に来る可能性は低いよな。
魔術師でも誰も気が付いていなかったというのは残念だが。
「暫くシェイラと遺跡発掘の手伝いに王都から離れていて、帰ってきたら王都の空気が妙に濁っているんで驚いたんだが・・・。
心眼で視てみると幻想界で空気が輝いていたのと反対に暗くなっているように見えるだろ?」
アンディは妖精の森に行った際についてきて、あちらの空気が輝いていたのを視ている。
今の王都の空気の状態も単なる埃では無い事を理解してくれると思いたいが・・・。
「えぇ?
ちょっと待って。
心眼で空気を視るのってコツがあって意外と大変なんだよ」
何やらブツブツ呟きながらアンディがこめかみに手を当てて空を睨み始めた。
そんなに難しいかねぇ?
魔術回路を心眼で視るのと同じ感じに、空気を視れば良いだけなのに。
まあ、そこら辺は文句を言ってもしょうが無いので根気よく待っていたら、突然アンディが肩を揺らした。
「何だこれ?
薄暗いんだけど??!!!」
「だろ?
健康に良いとは思えないから、何か異変が出てないかと思ったんだが・・・」
ゆっくりと周りを見回した後に、アンディは目をつむってまたこめかみの辺を擦った。
「う~ん、確かに空気が変に濁った感じになっているのは分かったが・・・最近は空気を心眼で視ようとしていなかったからなぁ。
今の状態が一時的に起きた異変なのか、王都では良くある事なのかも分からん」
思わずため息が漏れた。
心眼で幻想界の空気が輝いているのを視てはしゃいでいたアンディですらやっていないとなると、心眼で空気を常時(もしくは定期的にでも)視ているのって俺ぐらいらしい。
1月のいつに異変が起き始めたのか確認出来たら異変の原因も突き止めやすいと思ったのだが・・・どうやら駄目っぽいな。
もしも禁呪が関係しているのだったら学院長にでも相談しようと思っていたが、いつ始まったのかもどこが中心地なのかも分からないとなると何を相談したら良いのかも分からない。
しかも、同じ魔術師でも集中して心眼で空気を意識的に視ない限り認識できない問題だとすると、危機感を訴えようにも中々難しいし。
幻想界で煌めく空気を視た事があり、幻想界の空気とこちらの空気の煌めき具合の違いを比較するために王都でも空気を心眼で視たことのあるアンディだからこそ、今の濁った王都の空気がおかしいと納得してくれたが、普通の魔術師では『こんな物なんじゃないのか?』で終わってしまいそうだ。
流石に学生時代に遭遇した禁呪をやっていた屋敷の空気ほどどぎつく赤黒く染まっていれば何らかの異常を他の魔術師でも関知するだろうが、この程度では難しいんだろうなぁ。
実害が本当にあるのかも分からないし。
取り敢えず、王都を歩き回って濁りの濃い地域を探すしか無さそうだな。
面倒だ・・・。
これで単なる珍しい自然現象だなんて結果だったら俺は泣くぞ。
「王都の外ではこの空気の濁りはほぼ無いから、取り敢えず王都の中を歩き回ってどこが大元なのか探すか。
頭が痛い・・・」
ため息をつきながら髪の毛をかきむしったら、アンディが肩を竦めた。
「この際、清早に聞いてみたらどうだ?
水が原因だったら直ぐに分かるだろうし、そうじゃなくても他の精霊に聞くことも出来ないか?」
確かに。
王都にはあまり噴水はないし、存在する噴水はこの濁りの薄い王宮近辺に集中しているので水から空気の濁りが発生しているとは思えないが、清早の知り合いに風の精霊だっているだろう。
「清早。
ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど、お願いして良い?」
久しぶりの頼まれ事で、清早クンが張り切りそうw