513 星暦555年 藤の月 30日 汚染
王都に帰ってきました。
「・・・あれ?」
転移門で王都に帰ってきた俺は、魔術院を出た所で足を止めて周りを見回した。
「どうしたの?」
これから歴史学会に臨時業務完了の報告に行くシェイラが声を掛けてきた。
「・・・何か、空気が濁っているんだけど」
元々、王都は馬車や人通りが多いのでほこりっぽいし、魔具を買う程裕福で無い下町の人間は冬になれば薪や木炭で暖を取るのでそれなりに煙も漂っている。
だが。
今日の王都は何かが違う。
シェイラが周りを見回して眉をひそめた。
「空気が濁っているって・・・何かちょっと息苦しい感じがしないでも無いけど、ほこりっぽい冬の王都ならよくあることじゃない?」
いや、どれ程ほこりっぽくっても、晴れているのに薄暗く感じるほど空気が濁るなんて事は今まで無かった。
というか、それ程に空気が汚れていたらもっと匂いがするだろう。
周りをもう一度見回して、ふと『濁り』が実際に物理的に見えているのでは無く、心眼で視えていることに気が付いた。
何だこれ??
今まで王都に暮してきて、空気が何らかの形で心眼に視えた事なんて無いぞ?
妖精王の森に行った時は空気が輝いている様に見えたような気がしないでも無いが・・・これは反対の意味であれに近いのか?
幻想界はこちらの世界よりも魔力に溢れているからそれが煌めいて視えてもおかしくないが・・・反対に空気が濁って視えるって、ヤバいんじゃないかという気がする。
「シェイラ。
この空気は健康に悪いんじゃないかという気がするから、歴史学会の用事が終わったらさっさとヴァルージャに帰った方が良い。
食事は次の休息日にヴァルージャに遊びに行くから、その時に食べようぜ。
俺は何が原因でこんなに空気が汚染されているのか、ちょっと調べてみるよ」
この変な空気汚染がどれだけ広がっているのかは知らないが、どう考えても健康に良いとは思えないから、原因を調べて止めさせる方が良いだろう。
しっかし。
鉱山とか洞窟の中というのならまだしも、幾ら風があまりない日だとしても王都がこんな風になるなんて信じられん。
一体何が起きているんだ??
◆◆◆◆
「お帰り。
早かったね。シェイラとの別れを惜しんで食事でもしてから帰ってくるかと思ったよ」
取り敢えず王都からあちらこちらを寄り道しながら家に先に帰ってみたら、リビングで書類に目を通していたアレクに迎えられた。
「俺も食事をしてくるつもりだったんだが・・・王都の空気が変に濁って汚染されている感じだったから、さっさとヴァルージャに帰った方が良いってシェイラとは分かれたんだ。
いつの間に王都の空気があんなに汚くなったんだ?」
この家(と近所にある引越し先の新居)に居ることが多かったであろうシャルロはまだしも、アレクは王都にも出ているだろうから、気が付いた可能性は高いだろうとまず聞くことにした。
王都の空気は商業地域を離れて郊外に向かったら濁りが薄れて、ここら辺では殆ど見えない。
もう一度戻って王都のどこら辺の空気汚染が一番酷いかを確認するつもりだが、まずこの1月の間の経緯を誰かが知っていたら教えて貰いたい。
アレクが首を傾げた。
「どうも最近王都の空気がほこりっぽいとは思っていたが・・・汚染?」
う~む。
どうも、アレクは王都の空気の異変に気が付かなかったようだ。
漠然とは何かが違うことは気が付いたが、単に『ほこりっぽい』と判断してしまったのか。
「幻想界に行った時、森の空気が輝いていただろ?
その反対の現象が起きていると思うんだが、一体何をどうやったらそんなことが起きうるのか、想像も付かないから何を調べれば良いのかも分からないんだが・・・どう考えても体に良さそうでは無いだろ?
最近、王都に暮す家族が体調が悪いとか言っていないか?」
魔術師ではない一般の人間ではあの空気汚染は見えないだろうが、それなりに体に異変が起きる可能性はある。
とは言え、冬だからなぁ。
ちょっとぐらい体調が悪くなっても風邪が流行ったと思われるだけの可能性が高いか。
「確かに、最近どうも王都に行くと疲れ易くなる気はするな。
兄たちもどうも体調が悪いと言っていたし、不思議と怒りっぽい感じはしたが・・・冬だから風邪が流行っているだけではないのか?」
アレクが眉をひそめながら答えた。
ふむ。
取り敢えず、少なくともアレクの家族が寝込んだとか言うほどの影響は出ていないのか。
怒りっぽいというのは不思議な感じがするが。
まあ、疲れれば怒りっぽくなるのは自然な反応だから、あの空気汚染の一次的影響は疲労感だけなのかもしれない。
取り敢えず。
王都に戻ってどこら辺であの空気汚染が一番濃厚なのか確認して、その近辺でも聞き込みをしてみよう。
何やら怪しげな事が起きているっぽいですが、珍しく誰かの依頼では無く、自発的に調べる羽目になりました。