509 星暦555年 藤の月 10日 俺はオマケです。(8)
ウィルの視点に戻ります。
「素晴らしい!!!
素晴らしい発見だよ、それは!!」
オーバスタ神殿時代の宿屋か屯兵用の休憩所かと思われる塞がれていた洞窟を発見したとメインの発掘現場に行ってハラファに報告し、日誌と思われる物もあると言うことでアルマにも声を掛けたのだが・・・二人とももの凄い勢いで食らいついてきた。
森が広がって馬車で入るのには厳しい場所にあると伝えたところ、二人とも説明が終わる前に馬を出してきて跨がっていた。
乗馬出来るんだ~。
学者よりも俺の方が乗馬が苦手ってちょっと情けないかもなぁ。
気を取り直してアスカに頑張って少し早めに進んでもらい、学者組にせかされながら先程の洞窟へ戻った。
「いや~、本当に君って便利だよねぇ。
ウィル君を連れてきてくれたシェイラに、本当に感謝しているよ!!」
馬を進めながらハラファが俺に笑いかける。
・・・『便利だ』と面を向かって言われたのって初めてかも。
さすがは学者バカ。
「まあ、俺はシェイラのオマケですから。
今回の事に関しても、シェイラが周辺の地域を探索して回りたいと言い出したので付き合っただけですからね」
「幻獣の使い魔の助けを得られるし、心眼で色々見通せるしで、魔術師って本当に遺跡の発掘や発見に便利な存在ですよね。
今回のこの洞窟にしたって、アスカの助けが無ければほぼ確実に見つからなかったと思います。
是非、私の評価を報告する際にこの発見も加味しておいて下さいね」
にっこり笑いながらシェイラが付け加えた。
・・・何か、俺の扱いが雑じゃね??
まあ良いけどさぁ。
「しっかし、あれだけ大きな遺跡の街を発掘しているのに、こんな小さな宿泊設備がそれ程重要な発見になります?」
暫く学者組3人が興奮して色々話し合っているのに耳を傾けていたのだが、やがてちょっと飽きてきたので気になっていたことを尋ねる。
はっきり言って、宿屋なんてどうでも良くね?
「今発掘しているあの街は今までに無いぐらい完全な形だから、発掘現場としては非常に貴重だし、毎日新しい発見の連続とも言える。
だけど、オーバスタ神殿文明というのはあの神殿っぽい中央広場があるからこそ一つの文明として認識できる存在なんだ。その他の僻地にある村とか今回のような交通網上にある宿の様な設備というのは今まで発見できていなかった。
もしくは、発見されてもオーバスタ神殿の時代の物だと確定出来なかった。
だから今回はオーバスタ神殿文明の遺跡としては完全に新しい分類の遺跡の発見だから、例え小さな宿だとしても非常に珍しくて興味が引かれる発見なんだよ」
アルマが俺の疑問に答えてくれた。
なるほどね~。
だけど。
「別に神殿っぽい中央広場が無くても、固定化の術のパターンでそれなりに文明を紐付け出来ると思いますが?
まあ、固定化の術が掛っていないと駄目だけど、どちらにせよ『遺跡』レベルだったら固定化の術が掛っていないと殆ど何も残っていないですよね?」
学者組3人が口を閉じて静かに考え始めた。
「・・・そうか、時代によって術に違いがあるのか。
つまり、固定化の術を確認すれば、現存する発見された遺跡の時代認定が間違っていないか確認出来るし、場合によっては術の変容から文明同士の相互影響とかも見て取れるかもしれない」
やがてハラファがゆっくりと呟いた。
まあ、固定化の術を見比べて時代の変遷を見て取れるかとか、どの時代の魔術文化にどう影響を受けたかとかが分かるかどうかは知らないが。
「・・・魔術院に頼んでも、もの凄い費用になるとは思いますけど」
一応、警告しておく。
魔術の変遷を調べるために、遺跡その物を調べる予算を使い切ってしまっては本末転倒だろう。
「魔術院に依頼するのではなく、まずは考古学に興味のあるリタイアしたベルダ師みたいな魔術師に共同研究を持ちかけるのが良いかも?」
シェイラが提案した。
「確かにね。
他にも考古学が好きな魔術師は何人かいたと思うから、今度の総会の前にでも歴史学会の本部に提案してみよう」
アルマが頷きながら答えた。
まあ、固定化の術の微妙な違いを見て回るなんて細かい作業はハラファよりはアルマが関係する方が良いだろうな。
・・・というか、シェイラが主導してくれたら王都に戻ってくることになるかも?
下手したらヴァルージャのフォラスタ文明の発掘現場での関与は減らすだけで働き続け、それに追加してあちこちの遺跡の固定化の術の調査を手配することになって忙しすぎて俺と会う時間も無くなるかもしれないが。
要確認というところだな。
そのうち、ウィルが『俺と仕事とどっちが重要なんだ?!』とシェイラに問い詰めることになったら笑えるw