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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後4年目
504/1296

504 星暦555年 藤の月 10日 俺はオマケです。(3)

ちょんぼをかました若者の視点です。

ちなみに、『ハラファ』が『ハルツァ』に間違っていましたので修正しました。

>>>サイド ゼルガ・ファルター


「それで、どんな感じなんだい?」

態々王都から様子を見に来てくれた叔父がお茶を飲みながら尋ねた。


「まだ取りかかったばかりなのですが・・・もの凄い勢いで書類の山が整理されていっているので、この調子ならそう長く掛らないで問題は解決すると思います。

シェイラ・オスレイダに出来るのだから自分にも出来るなんて思っていたのがとんでもない思い上がりだったと実感しましたよ」

思わず、ため息が漏れた。


シェイラを最初に見かけたのは大学院でだった。

王立大学の経営学科の生徒だったシェイラが、何故か大学院の歴史の授業に聴講生として参加していたのだ。

一般教養的に受けられる大学の授業ならまだしも、大学院の授業など専門性が高すぎて他の学部の生徒が聴講してもちんぷんかんぷんだろうから助けてあげようと気に掛けていたのに、シェイラは鋭い洞察力と理解力を示す質問を教授に投げかけていて助けるどころの話では無かった。

あっけに取られている間にいつの間にか飛び級して経営学科を卒業していたシェイラは、大学院の経営部に進学しており、相変わらず歴史や考古学の授業に出没していた。


時折授業の討論とかで話したり、グループで行うプロジェクトで一緒になることもあった。大学教授である叔父の親族枠として格安な授業料で大学院に通ってノンビリと知識に囲まれる学生生活を楽しんでいたゼルガは、学部の選択や将来に関して家長と争っていたシェイラの授業料という制約条件を理解していなかったが、経営学部のシェイラに影響されてゼルガも会計学や経営理論といったあまり考古学と関係ない授業も聴講したのだ。


それもあって、考古学者として長年働いてきて歴史学会にも知り合いが多かった叔父がハラファ・ダーロンの下で実務担当をする助手として働けるという話を持ってきてくれた時に、授業で習った内容を活用して是非とも役に立とうと張り切っていたのだ。


シェイラがヴァルージャの新しい遺跡発掘で実質的に実務責任者として発掘班を采配しているという話を聞いてそれを羨ましく思っていたというのも全く無かった訳では無いが・・・自分としては、歴史に熱中しすぎて実務がおろそかになりがちな歴史学会のやり方を少しずつでも改善して行けたらという思いからの行動だった。


が。

授業で習っていた会計の流れには出てこなかった資金のやり取りが幾つも出てきて、意味が無いと思って効率化のために更新を取りやめていた資料が必要になり、何とか自分が作り上げた処理の流れで対応しようとして街の商人に『本当に、良いんですか?領主殿がお怒りになると思いますが・・・』と忠告されて身動きが取れなくなってしまった。


ハラファに相談しても、『ガルバはXXの資料を使っていたんだが・・・』といった調子で、その資料が継続されなかった為に行き詰まってしまった現状をどう解決すれば良いのかは教えて貰えなかった。


あたふたして、発掘班の人にも迷惑を掛けて手伝って貰いながら何とか必死になって現場を回していたのだが・・・。

『年初には王都にガルバも来るはずだから、彼に相談しよう』と諦めたようにハラファが投げだし、思わず目の前が真っ暗になる思いをした。

自分のせいで現場にこれだけ迷惑を掛けてしまうなんて・・・。


年末に王都に帰った際に叔父にも相談したら、結局何故かシェイラ・オスレイダがハラファを助けるために1月来ることになった。


「ガルバは有能だしハラファの発掘現場のことをよく知っているだろうけど、彼はもう別の遺跡発掘の現場責任者だからね。

そうそう簡単にそれを放り出して助けに来るわけにはいかない。

その点、シェイラはガルバと同じぐらい事務関係では有能らしいし、いくら実質的にはヴァルージャの遺跡の実務担当者とは言っても名目上はまだ助手だから、1ヶ月借りてもそれ程大きな話にはならないはずだ。

彼女が来ることで問題が解決できそうで、良かったね」

ノンビリと頷きながら叔父が言った。


「私も彼女も、どちらも大学院を卒業して数年程度の若造なのに、何故これ程に能力の違いがあるのでしょう?

シェイラはヴァルージャの実務の流れを1から作り上げたと聞きましたが・・・」

そう、シェイラは事務作業の流れを引き継いだのではなく、何も無い新しい発掘現場で作業の流れを1から作り上げて潤滑に発掘作業を采配していると聞いたから、自分だって引き継ぐだけで無く効率化が出来るはずだと思っていたのだ。


根拠の無い慢心だったことが直ぐに明らかになったけど。

だが、それが中々認められず、諦めて降参した時には記録がぐちゃぐちゃになっていて自分1人では建て直しすら出来ない状況になっていた。


叔父がおかしげに笑った。

「何を言っているんだい。

ゼルガだって同じ授業を受けて、同じような時間を復習に掛けていても同じ成績にならないのは見てきただろう?

同じ教育を受けていたら同じ結果をもたらせるなんてことは絶対に無いっていうのをちゃんと理解しないと、社会人としてやっていけないよ?

人の能力っていうのは個人個人でかなり違うんだ。

それぞれの個人がどれだけの能力があるかを見極めて、それに対応した仕事を振ることを覚えるのが責任者になった時に一番重要な課題なのさ。

若い間は、自分がどれだけのことをこなせるかだけを理解出来れば良いから楽と言えば楽なんだけど、経験が無いし今までやったことがあることしか挑戦しなかったらいつまで経っても新しいことを学べないからねぇ。

知らないことを挑戦させて貰って、周りに迷惑を掛けないようにちゃんと状況報告を随時上司と行って、必要に応じて早い段階で助けを求めるのが大事なことだと肝に銘じておくんだね」


確かに、同じ講義を受けても『何で???』と思うほど理解が出来てない人もいた。

自分は家で学者だった叔父や祖父から色々聞いていたから他の者とは違うのだと自然に思っていたが・・・考えてみたら、誰もが1人1人違う能力と限界を持っているという当たり前のことをちゃんと理解していなかったようだ。


「これから、私はどうなるのでしょうか・・・?」

シェイラが1ヶ月で現状の滅茶苦茶な状態を解決してくれたとして、その後自分はどうなるのだろうか?

歴史学会に呼び戻されてまた本部での雑用係になるのか、それともそれら許されず、歴史学会から脱退を勧告されるのか・・・。


「まあ、今回は内部的な問題で済んだからね。

特に表立った制裁は無いと思うよ。

ただし、今となっては誰も新しくゼルガと一緒に働きたいとは思わないだろうから、違う発掘現場に行くのは無理だろうけど。

5年か10年か分からないが、しっかり堅実に働いて『ゼルガは若い頃は無茶をしたが、今ならちゃんと経験を積んでいて頼りに出来る』と周りに言って貰えるぐらいの信頼を勝ち取っていかないと」

叔父が肩を竦めながら答えた。


このままこのオーバスタ神殿の遺跡発掘に関われるのならば、これ以上の事は無い。

蹴り出されないよう、頑張ろう。


・・・その為には、シェイラのやることをがっつり見て、何をどうやっていけば効率的に仕事をこなせるのか、吸収せねば。



学者家系出身だったから、事務用雑用係とは言え早い段階で現場に出れたんですね~

他の若いのが現場に出にくくなるような悪影響が残らないよう、リカバー出来ると良いんですが・・・

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