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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後4年目
503/1296

503 星暦555年 藤の月 8日 俺はオマケです。(2)

発掘現場に到着~。

「それで、どうだった?」

オーバスタ神殿の遺跡に来て、ハラファに軽く挨拶をした俺はまだ終わっていなかった区域の目録作りと固定化の術を掛けて回るのを再開した。

新発見された遺跡だけあって、この遺跡はやることがありすぎて優先順位が低い街の周辺部(と思われる区域)での目録作りや固定化による補強は前回俺達がボランティアに来ていた時から殆ど進展が無かったようだった。


まあねぇ。

アルマがやっている文書の再生だって中心部の町役場と思われる場所にあった本と書類の処理だけでもアルマの一生が掛るかもというレベルだと言っていたし、ヴァルージャの遺跡と違って発掘した現場が雨ざらしになるわけでも無いから、どうしても周辺部の記録や固定化は後回しになるよなぁ。


取り敢えず、俺がいる間は手伝おうと地味に働いていた俺とは別に、シェイラは早速事務処理用の部屋に文字通り山のごとく積み上がっていた書類に取りかかっていた・・・はず。

肉体労働が無かった割に、疲れ果てて居る様子だが。


「まるで遺跡を掘り起こしているような感じよ。

上の方に新しい書類がどんどん積み重なっていて、下の方に古い書類が埋もれてるの。

しかも奥の方が先に積まれたから、手前の下の書類よりは奥の上の方のが古かったりするし、ゼルガが全部時系列順に処理しようとして偶に下から紙を抜き出すときに山が崩れて順番が滅茶苦茶になっている場所があるし。

1ヶ月でちゃんと何とかなるのか、心配になってきたわ」

ため息をついて首の後ろを揉みながらシェイラが答えた。


「ゼルガっていうのがそのしでかした若いのか?」


シェイラが頷いた。

「そう。

商家とかでの実務経験があるという訳では無いし、発掘現場での経験も少ないから何に優先順位を付けるべきかもイマイチ分かっていないようなのよねぇ。

お陰で時折びっくりする程重要な文書が山の中から出てくるの。

今年の予算申請の紙が出てきた時は、ぎょっとしたわ」


予算申請ねぇ。

ぎょっとするほど重要なのか?

「予算の重要性がどうなのか俺には分からんが、何だってそんな使えないのが実質的に発掘現場を動かす責任者になったんだ?

どう考えても無理があるだろうに」


シェイラが肩を竦めた。

「責任者じゃあ無いわよ。

私だってヴァルージャの遺跡の『実務責任者』じゃあないし。

単に、ツァレスに実務的なことを話しても埒があかないから私が頼まれるようになって、非公式に私がツァレスの右腕になっただけなんだから」


え、そうなの?

右腕ってツァレスが紹介していたと思ったんだけど。

責任者じゃないってことは給料も新卒レベルなのか??

確か、若い内は発掘現場に出るにもスポンサーとのコネが無ければ難しいと言っていたから、書類関係とかの実務を一手に負うことがスポンサーとのコネ代わりなのか?


俺達が行った時の感じでは、どこで何を作業するかとかもかなりの部分をシェイラが管理していたから、実務面では明らかに責任者として周りからも扱われていたけど。

「まあ、それはともかく。

そのゼルガは首か?」


ハラファが提出書類をため込んで怒られたと言うだけならまだしも、歴史学会が問題視して他の現場にいるシェイラを派遣する程の問題になったのだ。

おとがめ無しになるとは思えない。


ワインをグラスに注ぎながらシェイラが肩を竦めた。

「今回はちょっと責任の所在が微妙だからね~。

元々、ハラファだって大学院出たての若いのが、現場の事務責任者になれるとは思っていなかったの。

だけど、新しい発掘現場でなにもかもを1から手配しなければならないのではなく、既に流れが決まっている現場で、ちゃんと引き継ぎもあるんだから今ある現場処理のプロセスを継続する位なら若いのでも大丈夫だろうと思ったわけ。

実際、ガルバから引き継ぎをして、1月程度はちゃんと事務が回っていたらしいのよ」


へぇぇ。

事務なんぞ殆どしないから分からないが、新しい現場で事務の流れを1から作り上げるのと、誰かが作った流れを引き継ぎを受けて継続させるのではそんなに難易度が違うのか。

「で、何が起きたんだ?」


シェイラがため息をついた。

「教育機関を出たばかりの頭の良い人間に良くある話なんだけど、ゼルガが『もっと流れを効率化できるからやり方を変えたい』ってハラファに提案したの。

そしてハラファったら、ゼルガがちゃんと1ヶ月やってこれたんだから事務で何をしなければならないのかもう分かっていると思って、やり方の変更に合意しちゃったのよ」


ふうん?

1ヶ月仕事を回せたんだったら、事務仕事ぐらい理解出来てるんじゃないのか?

職人の熟練の技とは違って事務作業というのはそこまで難易度が高いとは思わなかったが。


・・・とは言え、去年の税務に関する大騒ぎを考えると、事務作業というのも俺が思っているよりも奥が深いのかもしれない。

「1ヶ月ちゃんと回せたんだから、その『効率化』した方法が上手くいかなかったら元に戻せば良かっただけなんじゃないのか?」


俺が差し出したワインをぐいっと飲み干して、シェイラがガンっとグラスを机の上に置いた。

「そうなのよ!

上手くいかない可能性を考えて、ちゃんと元に戻せる状態で変更っていうのは行うべきなの!!

なのに!!!

あのバカったらちゃんと記録を取っていなかったとかで、自分が変えちゃったプロセスが元はどうなっていたのか分からなくなっちゃったの!!!!!」


あ~。

それは不味そうだな。

分からなくなったあげく、シェイラが部屋一杯の山積みの書類なんぞを攻略しなければならない羽目となった訳だな。

しっかし。

「元に戻せないって・・・別に書類を焼いて捨てちまった訳じゃあ無いんだろ??

何だって戻せないんだ?」


「発掘現場の事務作業って言うのは前の書類から継続していく部分が多いの。

何にどれだけお金を払って、予算がどれだけ残っているか、資金援助を約束してくれたスポンサーから幾ら資金を受け取っているかとかいった情報ね。

その流れがぶった切れちゃったから、今現在資金不足なのが予算を超えて変な無駄遣いをし過ぎたからなのか、スポンサーから資金援助をちゃんと貰ってないからなのか、歴史学会からまだ請求していない予算の残額があるのか、全然分からないのよ!!!」

シェイラがき~っと手を振り上げて怒りを発散させている。


おやまぁ。聞いているだけでも頭が痛くなりそうだ。

「発掘現場の事務作業がそんなに複雑怪奇だとは思わなかったよ」


力なく手を下ろしたシェイラがだら~んと椅子に背中を預けた。

「普段はそこまで大変じゃないのよ。資材の購入とかってそれ程多くないし、予算なり計画表なり去年の実績なりで何が起きるか大体予測も立っているし。

唯一ちょっと複雑なのがローカルでの資金援助ね。

そこの領主が援助してくれる時なんかは、お金の支払では無く周辺の街での買い物とかのツケを援助すると言われた金額まで領主に回して良いっていう形だったりすることもあるから、ちゃんと記録を付けておかないと援助を貰い損ねたり、援助の約束を超えた金額のツケを領主に回しちゃったりすることになるから。

だからやり方を変えた場合は上手く継続出来ないと大変なことになりかねないから、ちゃんと何がどう違うのかを理解してない場合は問題が起きたらその変えてみたやり方の部分の最初まで戻って元のやり方でやり直さないと駄目なんだけど・・・ゼルガは自分が分かっていないって事も良く理解出来ていなかったから、最初は自分が提案した『より効率的な方法』で何とか続けようとして、それが駄目だと諦めても今度はその新しい方法でやった結果に元の方法を続けようとしたから、もうぐっちゃぐちゃ!!

2ヶ月ぐらい経って『自分が全然分かっていない』という事実をやっと認めた時にはもう何が何だか分からない状態になっていたの。

ちゃんと分かっていない人間が考えついた事務処理の流れだから色々と問題が起きていて書類も溜まってきていたから、その時点で2ヶ月前の処理を全部最初からやり直す暇も無い・・・と本人は思っちゃったせいで、収拾が付かなくなっちゃった訳。

しかも、ゼルガは何が重要なのかもイマイチ分かっていないからポイントを抑えてハラファに学会の本部に絶対に提出しなければならない書類だけでも期限前にやらせるといった知恵も無かったし。

ハラファはハラファで事務処理の流れなんて碌に憶えて無くて、今まではガルバに言われたとおりにやってきただけだから・・・滅茶苦茶にしちゃったゼルガに相談されても手伝いようが無かったし。

最低限の部分だけは他の人達も手伝ってなんとか現場が回るようにしていたけど、それでも支払とかが遅れたせいで配達がストップしたりすることが多々あった様ね」

深くため息をつきながら、シェイラが今回の問題の流れを説明した。


うぇぇぇ。

何とも救いがないっぽい。

だが、書類作業じゃあ俺は助けにはならないからなぁ。

悪いな。

肩を揉むから、頑張ってくれ。


ちなみに、予算申請をしていないので、申請をするまで今年の歴史学会からの資金援助が全く入ってきませんw

取り敢えず新しい年になったので、領主へのツケを始めても暫くは大丈夫だろうとそちらを再開して何とか発掘現場を回しています

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