502 星暦555年 藤の月 5日 俺はオマケです。
「ハラファを憶えてる?
ちょっと彼のオーバスタ神殿の発掘現場に、今月一杯ぐらい手伝いに行く事になっちゃった」
年末のお祭り騒ぎや新年の祝いを終え、年初の挨拶に歴史学会に行っていたシェイラが帰ってきたら思いがけないことを言い出した。
「はぁ?
ヴァルージャのフォラスタ文明の発掘責任者の右腕であるシェイラが、オーバスタ神殿の方に鞍替えするのか?」
考古学ってもっと専門性が高い分野だと思っていた。
しかも1ヶ月だけ手伝いに行くって・・・。
俺達がボランティアでちょっとした手伝いを休暇の時期にやるならまだしも、一応歴史学会の一員で考古学の専門家(の卵)たるシェイラが1ヶ月程度の手伝いに行くというのは不思議だ。
人手が足りないにしても、大昔からずっとそこにあった遺跡を調べているんだ。
1ヶ月しか作業をしないんだったら、別に専門の違うシェイラを手伝いに駆り出す必要も無いんじゃないのか?
「違うわよ」
お茶を注ぎながらシェイラが笑った。
「去年の夏ぐらいに、小規模だけど新しく見つかったオーバスタ神殿の発掘責任者にガルバが抜擢されたの。
ガルバの代わりに若いのがハラファの助手として入ったらしいんだけど、若すぎてちょっと押しが足りなかったらしくてね~。
食料品とか暖房関係の最低限の手配だけは何とかなっていたらしいんだけど、記録とか歴史学会への報告とかの書類関係の仕事が滅茶苦茶に積み上がっちゃって、とうとう歴史学会からハラファに雷が落とされたらしいの。
で、ちょっと書類の山を処理するのを手伝って、ついでに若いのに現場管理実務のこつを教えてくれって頼まれちゃって」
発掘ではなく、現場管理の腕が買われた訳ね。
だから1ヶ月だし、専門違いな遺跡に行くことになったのか。
しっかし・・・。
「若いのって言ったって・・・シェイラより若いのなんて居たのか??」
シェイラが肩を竦めた。
「確かに、その教えなきゃいけない助手は年齢は私よりちょっと上よ。だけど大学院を卒業したのは私より後なんだから、『若造』って私が呼んでも良いの。
重要なのは年齢では無く実務経験と能力なんだから。
普通だったら大学院を出た若いのは発掘のスポンサーになれるような金持ちの親族が居ると言うので無い限り、5年から10年は歴史学会で下働きとして雑務をこなして知識を積んでコネを築き上げていくものなの。
私が『実務関係を請け負います!』とツァレスを説得してヴァルージャの発掘現場に参加して、それが上手くいったから同じ事をこの若いのもやろうとしたみたいなんだけどね~。
能力が無いだけの癖に、私が女だから周りが甘やかしているんだみたいなことを言っていたらしいから、根性をたたき直してこようと思って」
おいおい。
既に現場監督補佐で失敗したのが明らかになっているのに先輩のシェイラに教えてくれと頼むので無く、『女だから周りが甘いんだ』と言っていたのか???
シェイラが耳にしたと言うことは、それなりの人数にその愚痴なのか悪口なのか知らないがをまき散らしていたのだろう。
そこで潰れるままに放置せずに、根性をたたき直すというところがシェイラだよな~。
まあ、その助手未満がそんな甘いことを言っているとハラファが知ったら即座に首にしそうな気もするが。
と言うか、シェイラにこの話を持ってきた歴史学会のお偉いさんは悪口を伝えて態とシェイラをたきつけたな?
まあ、歴史学会で実務的能力を発揮してくれる人材は貴重そうだからなぁ。
何とかシェイラに若いのを教育して貰いたいというのが正直なところなんだろう。
しっかし。
今月はヴァルージャの発掘現場で手伝おうと思っていたのだが、シェイラが居ないんかぁ。
しょうが無い、俺もハラファのオーバスタ神殿に行くか。
あっちは北の方だから今の季節は寒いんだけどねぇ・・・。
ちょっとのほほんな発掘の話になりそうですw