005 星暦549年 紫の月 24日 補習
何だって魔術学院で歴史の補習を受けなきゃならないんだ~~!!!
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思っていた程容易にマスター出来ないとは言っても、魔術の実技と理論の勉強はそれなりに着実に努力が実ってきた。
何と言っても、稼ぎのいい魔術師になる為の技術だから、こちらだって真剣になる。
だが。
1日に勉強に費やせる時間は限られている。
魔術関係の勉強を必死に頑張った反動で、他の科目が少しおざなりになってしまった。
数学とか。
歴史とか。
法律とか。
数学や法律は将来の実生活に役に立つかもということでそれなりにやる気が出るのだが、歴史はどうしても無駄に思えてしょうがない。
『歴史に学べば失敗を繰り返さないで済む』と教師は言っているが、はっきり言って歴史になるような大きな事件に関与するのは貴族とか大商人だろう。
幾ら魔術師でも、盗賊出身の平民な俺がそんなに偉くなる訳はない。
だからついつい手を抜いたら・・・。
落第になった。
非魔術系の授業は落第しても退学にはならないが、合格レベルになるまでひたすら補習を受けることになる。
ということで、俺ともう一人の学生が授業の後の学院に残って補習で出された課題をこなす羽目になったのだ。
ちなみに、一緒に補習を受けることになった生徒はシャルロ・オレファーニ。
実はオレファーニ侯爵家の3男だったりする。
貴族のお坊ちゃまなのだから歴史なんて家庭教師にとっくのとうに一般教養の一環として教わっていそうなものだけどね。
「だぁ~~!
アファル1世がアファル王国を開きアル・ダントを王都と制定して、甥っ子のウィルフ1世が後を継ぎ、その姪のシャーヌ・アントワータがアファル1世の従姉妹の息子のハカヌ1世と結婚して後を継ぎ・・・て一体何だってちゃんと普通に子供が継いでいかないんだよ?!アファル1世だってウィレフ1世だって子供いたんだろ?!」
アファル王国の王を列挙し、各王の特徴をまとめよと言うレポートなのだが、まるで蜘蛛の巣のように複雑な人間関係に、既に始めて20ミルで降参状態だ。
「ふふふ。アファル1世の息子のジャファーダ・ライトタンはアファル1世が50歳の時に退位を要求して反逆罪で蟄居させられたんだよ。アファル1世もウィルフ1世もそうなんだけど、初期のアファル王国の王は魔力が高かったから寿命が長くって、子供が待ち切れずに反乱起こしちゃうケースが多かったみたいだね」
「お前は落第だったのに良く知っているじゃないか」
「ちょっとテスト中に他のことに気を取られてぼ~っとしていたら時間切れになっちゃったんだ」
笑いながら金髪頭の坊やが答えた。
「ああ、お目付役の精霊さんと喧嘩でもしていたのか?」
「!!!??」
シャルロが仰天したようにこちらを見つめた。
おいおい。そんなに眼を大きく開けていたら、目に埃が入るぞ。
「蒼流のこと、見たの?」
坊やのお目付役の精霊は、蒼流と言うのか。確かに青っぽい色だしな。
「そりゃあ、いつでも一緒にいたら嫌でも目に入るだろうが。授業にまで付いてくるなんて、ちょっと過保護すぎないか?」
「実体化していない精霊は、契約者以外からは見えないはずなんだけど・・・。ウィルって凄いんだね」
「口げんか出来るぐらい高位な精霊と契約出来ているお前さんの方が凄いと思うが」
いくら同級生とは言え、平民の俺が貴族のお坊ちゃまのシャルロにこんな話し方をするのは本来なら許されない。だが、補習の最初で「そんなに丁寧に話さなくっていいよ。居心地悪いし、友達になれないじゃない」と言ってきたのはこいつだ。
『トモダチ』なんて言うモノは信じていないし欲しくもないが、このぽや~とした坊やは中々面白い。
一緒にいても心地がいい感じがするんだよな。人徳というものかね。
だから精霊に好かれるのか。
・・・としたら俺は精霊との契約は絶対に無理そうだな。
「とりあえず、レポートを終わらせちゃって、お茶でも飲もう?
ウィルが他にどんなものを見ているのか、教えてよ。僕の他にも使い魔契約や加護契約をしている人って色々いるでしょ?」
だったらこのレポート、お前が仕上げてくれよ。
俺は歴史よりもアンティークの方がまだ興味があるんだけど。
盗めないし売れないモノに用はない!