496 星暦554年 桃の月 10~15日 どうしようか?(3)
「棺桶みたいにこれで囲んだら効率が上がるのかも確認しようぜ!」
やり直しも含めて色々と試作したもののテストをしてきた結果を表に纏めながら、ふと思いついた事を提案する。
夜寝る間に使うのだったら、ベッドの下とその横の壁には少なくとも貼付けられる。
二段ベッドで寝ているんだら上にも設置できる。
確か魔術学院の寮の初年度は二段ベッドの部屋もあったはずだから、ついでに棺桶のように囲って作ったらどうなるか確認するべきだろう。
効果が上がるなら良し、上がりすぎて危険なら問題ありだし、どちらにせよ知っておく必要がある。
「棺桶~?
ちょっと嫌なんだけど・・・」
シャルロが口を尖らせて抗議した。
「まあ、寝返りを打てるだけの高さを確保してベッドを囲む形で設置してみよう。
一応寝ている間に危険な事になったら困るから、日中にベッドの中で寝転がって本でも読んでいる間に調べて、私とウィルが常に部屋にいて安全確認をするようにしよう」
アレクが宥めるように提案する。
そうだよな、寝転がってさえいれば別に寝ている必要は無い。
だとしたら夜中にやるよりも日中に安全確認をしながらやる方が安心だ。
「分かったよ・・・。
だけど、それだけの量の魔術回路を作らないとね・・・。
一種類だけで良いかな?」
ため息をつきながらシャルロが合意した。
「・・・残念ながら、大量に使った際の相互作用が違う可能性があるから、実用性があると思われる試作品タイプは全部確認するべきだろうな・・・」
量を考えるとちょっと気が遠くなりそうだ。
思わず3人のため息が重なってしまった。
これだけ手間が掛る開発って今までに無かった気がする。
そりゃあ、通信機や空滑機を開発した時も色々と模索したり試作したり大変だったが、少なくとも魔術回路をこうも大量に作らなきゃいけないという退屈な作業はそれほど無かった。
辛いぜ・・・。
◆◆◆◆
「微妙だね」
数日掛けて魔術回路を作り、確認作業をしてみたところ・・・結局魔力吸収の効率は極端には上げられなかった。
棺桶タイプにしてシャルロから垂れ流された魔力で4刻かけて中ぐらいの魔石が1個完全に充填される程度。
俺やアレクで試したら小型の魔石1個半ぐらいだった。
まあ、小遣い稼ぎとしては悪くないとは思うが、これだけ大量に魔術回路を使う事を考えると微妙。
しかも。
「部屋から完全に魔力を抜くと疲れが抜けにくいし魔道具や固定化の術が弱まるっていうのは意外だったね~」
棺桶タイプで一番魔力吸収の効率が良かった魔術回路をシャルロの部屋の壁、床、天井全てに貼ってどうなるか試したところ、シャルロが『ちょっと息苦しい?』と言った上に、部屋にあった魔道具の魔石の消費が大きかった上に壁の防水の術が弱まったのだ。
意外・・・。
どうやらこの魔術回路、シャルロ本人が垂れ流している以上の魔力は吸収していないのだが、部屋の空気にある魔力も吸収しているらしく、そして部屋の空気に全く魔力が無いと魔力の回復が遅れるのだ。
更にどうやら魔力の回復が遅い時って心なしか疲労感があるらしい。
まあ、これは人一倍魔力のあるシャルロだからかも知れないが。
それはともかく。
今回の事で初めて知ったが、人間って魔力を周囲から吸収しているらしい。
テスト部屋に1日いても一応ある程度は魔力が復活したので、食事を取ることで体内で魔力を生成しているようなのだが、外からの吸収が無いと消費した魔力の補充が遅くなるのだ。
防水の術が弱っていたのを視て、ランプ形魔道具を使って術の劣化に関しても色々確認してみたところ、魔力吸収の魔道具を側に置いたランプ形魔道具は外に置いて使った同型の魔道具よりも魔石の消費が激しかったが、魔力吸収の魔道具を大量に回りにおいてもある程度以上は変わらなかったので、魔道具の魔石から直接魔力を取り出して吸収してしまっている訳では無いと思われる。
固定化の術を掛けた積み木の固まりでも似たような実験をしてみたら、やはり魔力吸収の魔道具を傍に置くと術の劣化が少し早いがある程度以上は早まらない。
つまり。
どうも通常の術とか魔道具って周りの魔力をちょっとずつ吸収して術の維持に使っているらしい。
ちなみに、テスト部屋よりも棺桶タイプの方が魔力吸収の効果が高かったので、どうやら距離が離れると吸収効率が下がるらしい。
とは言え、ベッドの下一面に魔術回路を設置する程度で普通の人間が垂れ流がす余剰魔力は全部吸収できるみたいなので、棺桶タイプは必要ないようだ。
「無理矢理魔力を吸い取れないというのは良いことなんだけどね」
アレクがシャルロに合意した。
だが、残念なことに一番使い勝手が良さそうな街路灯の照明というアイディアは結局駄目っぽい。
「固定化の術がちょっと弱まるにしても、魔石を補充しなくても勝手に周りから吸収してくれるなら費用効果的には実用性無いかなぁ?」
シャルロがアレクを見ながら尋ねた。
アレクが肩を竦めた。
「微妙な所だな。
街路灯にするだけの明るさを保とうと思ったらかなりの量の魔術回路が必要だから、製作費まで含めて考えるとギリギリ、という所かな?
その程度の経済性だったら態々新しい事業を始める必要は無いと言われる可能性が高い気がする」
はぁぁぁぁ。
これだけ頑張ったのに・・・。
まあ、少なくとも魔術学院で魔石補充用に使うのに売り込めるかな?
売り込みに成功したら最初には一気に大量に売れるがその後は需要が無いからなぁ。
シェフィート商会にどれぐらいの製作費になるか、確認して貰わないと。
一般の人からも小遣い稼ぎように買って貰えるレベルまで製作費を下げられたら採算が取れるかも。
でも、何か他にも使い道を探したいところだなぁ。
取り敢えず危険では無いことは判明しましたが微妙な弊害も発見。
考えてみたら、殆ど魔力が無い人とか魔力を封じられた人のベッドの下にこれを敷いたらどうなるかも確認すべきですよね。