493 星暦554年 桃の月 2日 相談?(5)
遅くなりました。
「取り敢えず、持って帰ってアレクとシャルロに相談しながら研究してみて良いか?」
東大陸の蚤市で怪しげな洗脳モドキな効果がある魔道具を見かけた時は蒼流が効果を知っていて説明してくれた。
今回もちょっと聞いてみても良いかもしれない。
清早でも教えてくれるかも知れないが、どちらにせよパラティアの前で清早と相談するのは微妙だ。
「・・・と言うか、何でしたらこの魔道具を買いませんか?
どうせこれを研究できる程に私の知識が深まるのはまだまだ先でしょうから、それをそれまで持っておくのも微妙ですし、調べて何か役に立つような結果が出るのでしたらさっさと商品化した方が良いでしょうし・・・。
かといって、私からウィル様に研究を依頼する形にするのも色々と権利関係とかが面倒そうですから、買い付け価格と運送料を合わせて金貨10枚でどうでしょうか?」
ちょっと考えてから、パラティアが提案した。
ふむ。
確かに調べて何か使える魔術回路が分かったら、それに関して開発するのにパラティア(というか実質的にはサリエル商会)と権利交渉するのは面倒だな。
かといって流石に相談を受けて見せられた魔道具が良い商売の種になりそうだからと今更類似品をシェフィート商会にでも頼んで入手するのもちょっと人間としてどうかと思うし。
金貨10枚というのは使い道があるかどうか微妙な道具に払うには高い値段だが・・・遠方の国で買ったんだったらそんなものなのだろうな。
「そうだな。
その方が色々面倒じゃなくって良いかもしれない。
後で売買契約書と代金を持ってくるよ」
金貨10枚を払って何の役にも立たない魔道具だったらかなり切ないが。
まあ、確かに不思議な魔力の動きを見せているから、研究するだけの価値はある・・・だろう。
多分。
◆◆◆◆
急いで家に帰り、アレクに頼んでごく基本的な売買契約書を書き上げて貰って代金とそれを持って魔術学院に戻り、魔道具を入手して家に戻ってきた。
忙しない。
まあ、それはともかく。
やっと家に帰ってきた俺は工房の机の上に問題の魔道具を置いて、清早に声を掛けてみた。
「清早?
これって何をしているか、分かる?」
東大陸の蚤市では蒼流があの洗脳効果モドキのある魔道具について警告してくれたので、これに関しても清早が知っていないかと思ったのだ。
ぽんっと清早が現れた。
「あ~。
それってちょびっとだけ精霊の力を吸収する魔道具だね。
精霊の力を弱めることで自然の脅威である嵐とかを弱めようと作っていたみたいだけど・・・精霊が態々嵐を起こすことなんて滅多に無いからね~。
しかも嵐を起こせるような精霊だったらその魔道具で力をちょっと吸われても気が付かないレベルだし。
たいして効果が無いのに、生まれたばかりの力の弱い精霊を弱らせちゃうから農作物とかの育ちとかを悪くしちゃって、使っていた地域が衰退したから廃れた魔道具だね~」
あっさりと清早が魔道具に関して説明してくれた。
へぇぇ。
清早は精霊としてはまだ子供と言っても良いぐらいな年齢らしいから、知らないかと密かに思いつつも駄目元で聞いてみたのだが、意外にも知っている様だった。
まあ、精霊に力を及ぼす珍しい魔道具だからなぁ。
とは言え、あまり製作者の期待通りの効果は無いようだが。
地域が衰退ってなんだよそれ?
清早に言われたことを念頭に置きながらもう一度魔道具を心眼で視てみる。
ふむ。
確かに魔力を吸収しているようだが・・・どうも清早だけで無く空気中の魔力や、俺からも微かに吸収しているように視える。
とは言っても、殆ど気が付かない程度だが。
これじゃあ嵐の力を弱めるなんて夢のまた夢という感じだな。
だが・・・面白いことに、これは吸収した魔力を魔石に蓄積させているようだ。
効率はかなり悪いが。
「ただ今~。
あれ、なにそれ?」
工房に入ってきたシャルロが魔道具を見て声を掛けてきた。
「ウィルがパラティア・サリエルから金貨10枚で買い取った怪しげな魔道具だ」
横で見ていたアレクがあっさり答えた。
「怪しげなって・・・。
まあ、確かに怪しいけど。
ごくごく微量に魔力を吸収する魔道具のようだね、これ」
アレクの言葉に抗議しながら更に魔道具を観察する。
「金貨10枚?
微妙な値段だね」
シャルロも覗き込みながらコメントした。
そう。
骨董品、もしくは魔道具の値段としては金貨10枚というのは高くは無い。
だが、役にも立たないガラクタだとしたら無駄にするには惜しい金額だ。
「まあ、骨董品らしいからな。
とは言え、効果はほぼ無いに等しいようだから骨董品として極端には高くはない値段だろ?
だが・・・これは一応魔力を吸収して魔石に蓄積する効果があるみたいなんだよね」
精霊から吸収しちゃうというのは困るが。
まあ、人間からだってあまり吸収されては困るか。
体調が悪い時なんぞに吸われちまったら更に体調が悪化しかねない。
だからこそこの魔力を遮断する箱に入っていたのだろうな。
だが、それこそ体調が悪くない時に寝ている間にでもちょっと魔力を吸収して魔石に蓄積してくれるというのは悪くない機能かも知れない。
起きている時だったら魔術師ならこの魔道具よりもはるかに効率よく魔石の魔力の充填は出来るが、そんなことをするよりは普通に仕事をしている方が儲かる。
だが・・・。
「寝ている間とか、魔力を使わない作業をしている時なんかに勝手に魔石を充填してくれる機能を持たせられたら、面白いと思わないか?
売れるかどうかはかなり微妙な気はしないでも無いが」
魔石に充填出来るだけの魔力がある人間となれば基本的に魔術師だ。
そして魔術師だったら魔石に魔力を充填するよりも術を掛けることに魔力を使った方が儲かる。
そう考えると、ただでさえ購入層が魔術師だけになりそうなのに、その中でもこれを買おうと思うような奇特な人間は少ないか。
目新しい機能かも知れないが、態々開発する価値があるかどうかは微妙な所だな。
結局相談としてはあまり何もしなかった感じですね~。
まあ、相談されてもウィルに解決できることってそれほど無かったでしょうから、2人とも特に問題が無いようで良かったw