484 星暦554年 橙の月 10日 明朗会計は大切です(9)
「マジ?!」
アンディがガバッと起き上がって、俺のことを掴んで揺さぶらんばかりに身を乗り出してきた。
・・・疲れているせいなのかね?
妙に反応が大げさなんだけど。
アレクとシャルロも呆気にとられているぞ、アンディ。
「おう。
下町じゃあ裏ギルドの情報網はそれなりに有名だったぜ。
人間関係は娼婦ギルド、財産関係は盗賊ギルド、健康関係は暗殺ギルドに聞けってね」
実は医療関係の最先端の知識を持っているのは暗殺ギルドなんだよねぇ。
命の神ハレフの神殿の方が癒やしの術に関してはプロだけど、薬と毒に関しては暗殺ギルドの情報の方が、色々怪しい人体実験もやっていることで最先端の正確な情報を持っているのだ。
薬は使い方を違えれば毒として使えるので、そこら辺の実験を色々とやっている間に治す方の情報もいつの間にか蓄積したらしい。
ハレフ神殿や薬師ギルドも暗殺ギルドから定期的に情報を買っているとの噂だ。
「へぇぇぇ。
じゃあ、誰か盗賊ギルドの人間に伝手無い?
下町に行ったら盗賊ギルドの代理店が目に付く場所にある訳じゃあ無いんだろ?」
アンディが気軽く頼んできた。
おい。
そりゃあ、確かに素人が見つけられるような盗賊ギルドの代理店がある訳じゃあ無いが、魔術院からの依頼モドキが盗賊ギルドの長から来たことだってあるんだ。
つまり、ちゃんと魔術院の中に盗賊ギルドへの伝手があるはずだ。
「魔術院だって盗賊ギルドとの伝手はあるだろ?
ガキの時に俺が浮浪児の間で聞きかじった盗賊ギルドの連絡先なんぞにたよるより、ちゃんと正規なルートで魔術院として依頼を出せよ」
アンディが肩を竦めた。
「正規なルートでやったら高く付くだろ~?
俺の点数稼ぎの為にも、協力してくれよ。
折角これだけ苦労したんだ。下手に盗賊ギルドとの伝手がある奴を頼ってそいつに手柄を取られたら馬鹿らしいじゃないか」
アンディも中々熾烈な出世争いをしているんかね?
確かに頑張ってはいるようだったが、楽しげに遊び半分でやっているように見えたんだが。
まあ、こいつは魔術師の一族出身だからな。
それなり家族からの期待とかプレッシャーとかがも大きいのかも知れない。
さて。
情報提供の仕事の繋ぎを取る程度の事なら構わないのだが、問題は誰に連絡を取るかだな。
もうそろそろ、酒場の連絡員が俺が現役だった頃の奴らから顔ぶれが入れ替わっている可能性が高い。
そうなると俺が繋ぎを取りにギルドの酒場に行っても、話が通じるまでにかなり時間が掛るかも知れない。
直ぐに話が繋がったにしても、『魔術院のウィル・ダントール』が盗賊ギルドの元一員だったとギルドの下っ端にばれるのは避けたい。
かといって直接アンディを盗賊ギルドの幹部の所に連れて行くわけにはいかないよなぁ。
秘密にしているはずの幹部の隠れ場所に俺が現れるのを長は半分楽しんでいるようだが、外部の人間を連れて現れたら流石に怒るだろう。
取り敢えず。
俺が依頼の話を持って行って、盗賊ギルドの誰かがアンディに会いに行けば良いよな?
「俺がガキの頃の盗賊ギルドの人間だって噂されていた親父が未だに酒場にいるのかは知らないが、取り敢えず依頼の話を伝えておいてやるよ。
受ける気があったら向こうから2、3日中に連絡が来るだろう。
ちなみに、予算は幾らぐらいを考えているんだ?」
はた、とアンディの動きが止った。
「・・・こう言うのって相場幾らなんだ??」
知るかよ。
「あ~。
取り敢えず、幾らでどの位の情報をいつまでに渡せるか、ギルドの人間が連絡するように頼んでおくよ。
金額で折り合えなかったら諦めるんだな」
俺だって偶に情報を買っていたが、大した値段じゃあ無かったから大丈夫だろう。
でも、考えて見たらあれは内部価格だったかも?
まあ、幾らそれなりに成功していたとは言え、浮浪児から毛が生えた程度のガキが払えた金額なんだ。
何十人もの魔術師の過払い利息を取り返そうとしているんだから、想定収益に比べたら大した金額じゃあないだろう。
それは良いにしても。
今の時期って長はどこに居るんだっけ・・・?
長のところに会いに行くまで話が進みませんでした~。