483 星暦554年 橙の月 10日 明朗会計は大切です(8)
「アレク。
ウドウ商会の財産の状況を確認したいんが、これってウドウ商会に知られずに商業ギルド経由で調べる事は可能か?」
目の下に大きな隈を作るほど疲れ果てているのに何故かウチに遊びに来たアンディが、帰宅したアレクに声を掛けた。
シャルロが淹れたお茶を受け取りながら、アレクが眉をひそめてアンディを見返す。
「ウドウ商会?
あの、イリスターナ達が騙されていた貸金業者か?
財産状況を調べたいなんて、物騒な話だね?」
財産状況を調べることが物騒なんだ??
これから盗みに入るから家に置いてある宝石類の下調べをしておくと言うのならまだしも、アンディやアレクがそういうことを話しているとは思えないが。
「アンケートの設問の中に、『法定利息の上限は年率10%であって、月10%では無いことを知っているか?』という質問があったんだが、この質問に『否』って答えた魔術師がもの凄く多かったんだよね。
イリスターナのこともあったから、一応の為と思ってどこから幾らぐらい借りたのか、どのくらい今まで利息を払ったのか確認したら・・・やたらとウドウ商会絡みの契約が多かったんだ」
アンディがため息をつきながら答えた。
う~ん。
何しに遊びに来たんだろうと思ったんだが、どうやら話はそれなりに深刻なのか?
もっとも態々ウチまで来なくても商会関係の魔術師はアレク以外にもいると思うけどね。
まあ、アンディとしては親しくしていたアレクだと信頼できるから情報漏洩を心配せずに話が出来るのかも知れないが。
アレクが微かに首を傾けた。
「ウドウ商会は一応商業ギルドの一員だからねぇ。
魔術院からの要請があっても流石にウドウ商会に知らせずに情報提供することは出来ないだろう。
それにしても、契約が多かったって・・・もしかして、違法な利息と借金の相殺確認の申し出と過払い利息の請求をしたら商会が潰れそうな金額なのかい?」
今まで不当に高い利息を毟り取っていた分の借金に関して、元本は既に過払いした利息で返済されていますよね、という確認とそれをしても更に過分に受け取っていた利息を返すだけであの立派な店舗を持つ商会が傾きそうなほどの金額になるのか??
一体どれだけの魔術師が借金をしていたんだ?
アンディがため息をついた。
「なまじ経済力があるから、ちょっとした運転資金の足しにするために気軽に金を借りていた魔術師が意外と多かったんだよ。
酷い場合なんて、返済できるのに返しに行くのが面倒だし、もしかしたらまた金が必要になるかも知れないからって手元に資金を残してそのまま返済せずに利息だけ払い続けていたのもいたし。
しかもどうもウドウ商会は魔術師達のそこら辺のお金に対する無頓着さをよく分かっていて、客層として狙っていたらしくてね。
魔術師の1割ぐらいがあそこから借金をしていたんだ」
すげえ。
1割かよ。
一体何十人になるんだ???
魔術師ってそれなりに稼ぐ家業なのに一体何だってそんなに借金する必要が生じるんだ???
アレクが頭が痛くなったかのように片手を額に当てた。
「1割???
凄いな。
利息を払ってもあまり負担にならない程度の金額を借りていたとしても、その人数だったら確かにウドウ商会が傾くかも知れないな」
アンディがため息をついた。
「しかも、あそこの会頭は資産を隠し持っているという噂もあるからねぇ。
だから魔術院から一気に過払い金返済の要求がいったら、さっさと商会の破綻処理して自分は金を持って逃げる可能性が高いと思って。
勝手に商会の資産を持ち逃げできないように、先に資産状況を確認しておきたい所なんだが・・・」
なるほどね。
個人の債務は払えなくなった場合、国が肩代わりしてそれを返済するまで強制労働することになる。
だが、商会の債務は会頭なり商家の人間なりが個人的に保証していない限り、商会が破綻したらそれで終わりだ。
会頭が商会の債務に対して個人保証をしていないのは何か違うんじゃ無いかという気もするが・・・確かにそこまで悪どい事をやっていて、ばれたら過払い利息の返金請求で商会が潰れるような事業スタイルだったのなら、個人保証はするわけが無いか。
中堅どころの借金をあまり気にしていなかったような魔術師にとって過払いした利息を取り返す必要があるのかは微妙な気がするが、確かに今まで不当に儲けた利益を隠し持って夜逃げされたりしたら不愉快だよな。
「商業ギルドが駄目なら、盗賊に相談したらどうだ?
金持ちがどこに資産を持っているかは色々と調べてあるはずだぜ」
なんと言っても高額な宝石とかを買ったという噂が流れた際に、それを自分の自宅に仕舞うとは限らないからな。
ある程度以上裕福な人間の別宅や商会の支店とかの場所は全て調べてあるはずだ。
俺も幼い頃はそう言う下調べのバイトをちょくちょくしたからね。
ちょっと話をどう進めるか迷っていたら昨日は更新し損ねちゃいました、すいません。