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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後3年目

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480/1336

480 星暦554年 黄の月 21日 明朗会計は大切です(5)

「税額計算に不備があったので還付金申請に来ました」

イリスターナ達の引き出しから持ち出してきた書類と先程書き上げた帳簿を差し出しながらアレクが国税局の窓口に声を掛けた。


国税局には初めて来たが、中々渋くて立派な建物だった。

あちこちに窓口があって人が並んでいる。

税金なんてあまり考えたことが無かったが、魔術院よりも大きいぐらいの建物が必要とは、一体どんなことをしているんだろう?


「拝見致します」

窓口の女性がアレクの差し出した書類を受け取り、ぱらぱらぱら・・・とめくって算盤を目も止らぬ早さではじき、頷いた。


うへぇ~。

アレクの計算も凄いと思ったが、こちらは達人の域に達している感じだわ・・・。


女性は最後に分厚いファイルを取り出して何やら確認して、何やら用紙に書き込んてその写しをアレクが渡した書類と一緒に渡してきた。

「税額計算の修正ですね。

どうやら問題がないようですので、こちらが還付金の引換券になります。あちらの5番窓口で受け取って下さい」


あっさりと差し出された引換券に、俺達は思わず呆気にとられてしまった。

随分と簡単に金を返すね???

法定上限利率を超えた貸付金の借金の始末にほぼ丸1日掛ったと言うのに、その諸悪の根源だった税金の修正に半刻もかからないとは予想外だった。


「・・・もしかして、こちらに魔術院からの魔術院に支払われた報酬の明細書が来ているのですか?」

アレクが先程女性が調べたファイルを指しながら尋ねた。


「ええ。魔術院だけでなく、ほぼ全ての大型ギルドの会員への報酬額が集められています。

税額修正の申し出がある度に一々関連するギルドへ確認していたのではいつまで経っても終わりませんから」

あっさりと女性が頷いた。


・・・そんな情報があるんだったら最初から税金を払いすぎている人間に助けの手を差し出せば良いのに。



「若い独立したばかりの魔術師が魔術院以外からの報酬がそれ程無い事なんて明白でしょうに。

最初の課税の際に一言アドバイスを頂く方が関係者全員の手間が省けませんか?」

アレクが穏やかに尋ねた。


最初にイリスターナの話を聞いた際のアレクの義憤(?)は彼女達の『帳簿』引き出しを見た時点で諦め(笑)に変換したようだったが、それでも税務官の不親切に対する不満は少しは残っていたらしい。


「税務官は課税対象からの相談に乗ることは禁じられています。

国税局なり、魔術院なり、商業ギルドなりの相談窓口に来ていただければちゃんと帳簿の付け方なりギルドの貸付制度のことなり、説明があったはずですよ?」

女性が答えた。


相談窓口なんてあるのか??

魔術院の『相談窓口』って一般人の依頼用のあれだけだと思っていた。

魔術師用の相談窓口なんてあったとは知らなかった。


「税務官が相談に乗ることが禁じられているとは・・・随分と厳しいですね?」

アレクが眉をひそめながら聞き返した。


国税局の女性が肩を竦めた。

「税務官は不正を発見すると特別報酬が出るのですよ。

お陰で相談に乗るふりをして不正を行って脱税するよう指導し、後から同僚なり後輩なりにそれを発見させて特別報酬を山分けする問題が過去にそれなりの頻度で起きたため、税務官は税額の計算に関して一切口を挟むことを禁じる決まりになっているのですよ。

商業ギルドで聞きませんでしたか?」


おい。

なにそれ。

嵌めて後から適正税額の3倍を払わせて自分は報酬を貰うの???

酷すぎる。


アレクが驚きに目を丸くした。

「商会の人間は、税務調査が入らない限り帳簿を税務官に見せて相談に乗ろうなんて考えすらしないのでそんな問題があったとは話題にもなっていませんでした。

だから商業ギルドは会員に初心者研修であれほど丁寧に帳簿の付け方とか税務に関する規定を教えるんですね・・・」


おやぁ?

アレクさんもちょっと世間知らずだったの?

まあ、大きな商会にとって国税局や税務官はある意味『敵』だからそちらに相談しようなんて考えは最初から殆ど無いんだろうな。


「基本的にどのギルドでも年初の税金を払えない場合の会員用の低利子貸付制度がありますからね。

そちらで貸出の条件として帳簿の付け方や税務に関する規定を学ぶことを義務づけているはずなのですが・・・?」

女性が片方の眉をくいっとあげてこちらを尋ねるように見上げた。


振り返ったアレクに見つめられたイリスターナとタニーシャはお互いに顔を見合わせて、肩を竦めた

「魔術院がお金を貸してくれるなんて知らなかったから適当に目に付いた貸金業者に行ったのよ。

どうせ直ぐに返済できると思っていたし」


アレクが深くため息をついた。

「タニーシャの家族は鍛冶ギルドの職員だろう?

初心者研修はまだしも、ギルドの貸金制度については聞いたことがなかったのか??」


タニーシャがため息をついた。

「鍛冶ギルドで貸金制度があることは知っていたわよ。

だけど魔術院って『ギルド』って名前じゃ無いじゃない!!

まさか同じようにお金を貸してくれるとは思ってなかったから、相談しようなんて思いもしなかったわ。

・・・恥ずかしかったし」


確かに、『魔術院』って『ギルド』とは呼ばれてないよな。

俺も魔術院って魔術師としての義務に関して管理している団体だと思っていたから、何かがあった際に助けてくれる団体だとは思っていなかった。


「魔術院だって魔術師の互助団体だよ?

何か理不尽なことがあったら魔術院に苦情を言って対応を頼めば良いって魔術学院で聞いたよね?」

シャルロが首を傾げながら俺達に言ってきた。


あれ?

そんなこと言われたっけ?


「そう言うのは『魔術師』の威信を下げないためと思ってた。

資金繰りに困ったなんて相談したらそれこそマイナス評価に繋がるかと思ったし。相談できるなんて夢にも思ってなかったわ」

イリスターナが肩を竦めて答えた。


俺は別に魔術院の俺に対する評価が上がろうが下がろうが構わないが、どちらにせよ助けてくれるとは思っていなかった。

ちょっと魔術学院での授業でのさらっと説明された魔術院の役割について斜に構えすぎてたかな?



ちょっと魔術院のメンバーに対する広報活動が足りなすぎなのが諸悪の根源だったようですw

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