047 星暦550年 青の月 17日 学院祭再び!
究極の文官職であると見られがちな魔術師の卵ながら、学生は学生。
お祭り騒ぎが大好きで、イベントの際には元気がはち切れそうだ。
「再び学院祭の時期が来た。
去年はコメディー路線で見事最優秀賞を勝ち取ったグリフォン寮だが、同じものを続けてやっても面白くない。
何かアイディアを上げてくれ!」
今年の寮長であるダンカン・マックダーが食堂に集まれた寮生の前で声をあげていた。
「もう学院祭の時期か」
お茶を淹れながらつぶやいた。
「そう、今年は僕たちが活躍しないとね!去年はウィルが活躍したけど僕たちは裏方だったからね」
シャルロが元気に返してくる。
例年この学院祭は2,3年が大まかな部分を企画して実行に1年を巻き込むことで学年を越えた人間関係を築かせる役割を果たす。
だから去年の俺たちは基本的にこき使われた。まあ、実は2,3年が色々気を使ってくれていたようだけど。
今年は俺たちが気を使う番か。
イマイチ1年生になんぞ興味が無かったから誰がいるのか、名前と顔が一致してないぞ、考えてみたら。
「今年は真面目な『雪の姫君の魔法剣士』をやるとか?」
「いやいや、どうせならもっと華々しく戦闘場面を演出できる『アサダール砦の攻防』とかは?」
前でわらわらと提案があげられる。
「演劇ではなく手品のショーとかはどうだ?」
アンディが提案していた。
「そんなもん、魔術を使ったら全然面白くないし、使っていなかったら『魔術を披露する』というポイントが入んないじゃない?」
思わず突っ込みを入れてしまった。
まあ、基本的に例年演劇らしいからなぁ。
たまには違うのをやった方が面白いとは思うが。
「『絹の踊り』の完全コピーというのはどうだ?
あのサーカス団のショーはいい感じに纏まっていて見ていて面白いし、体を動かすことに関しては素人な我々が、魔術を使ってあのショーをコピーするっていうのは評価されないかね?」
アレクが提案した。
『絹の踊り』は最近この街に来たサーカス団のことだ。
魔術が利用される一般的なサーカスと違い、このサーカス団は安全網の為の魔術以外、一切魔術を使わないのが売りだ。
幾ら身軽に優雅な動きをしていても『魔術を使っているから』と一般の人からは『面白いけどどこも同じ』といったようにしか評価されない普通のサーカスに比べ、『絹の踊り』は魔術なしの動きであれだけの曲芸をするということで爆発的な人気を誇っている。
ま、他のサーカス団だって多少魔術を使っているが、高額な魔術師よりも普通の人間の筋肉と技術で曲芸の殆どをしているんだけどね。
それを『全ての動きは魔術の援助なしです』とアピールすることであれだけ売っているんだから、あの団長は売出しがうまい。
ま、来年には他のサーカス団も似たようなことをやりだして、サーカス団に勤めていた魔術師は失業ということになるんだろうけど。
「魔術を使えば同じ動きは可能だが、あのスピードでやろうと思ったらそれなりに身体能力も必要だぞ。体を動かすのが得意な人間って何人ぐらいいるんだ?」
思わず聞いてしまった。
俺は曲芸なら得意だし、ダレン・ガイフォードも身体能力はダントツにいいだろう。
だが、俺たち二人だけではあのショーは出来ないぞ。
というか、あれって奇麗な若い女性の華やかな演目が特に人気なんだから。
「お前にダレン、タニーシャ。
あとは・・・」
ダンカンが数え始める。
「アルラン!」
「ザビア!」
「イリスターナも!」
次々と提案の声が上がる。
「とりあえず、『絹の踊り』ショーということで皆いいか?」
熱心な反応を見て、ダンカンが寮生に確認を取った。
「おお~~!!」
ノリノリな返事。
皆お祭り騒ぎが好きだよなぁ。
「じゃあ、高所恐怖症じゃない、究極の運動オンチ以外は全員体育館に明日の授業の後すぐに集まってくれ。
全員とりあえずテストしてみよう」
ということで、今年はサーカスになるようだ。
俺の活躍の場面が盛り沢山になりそうだが、去年よりも練習中に肉体的に痛い思いをしそうだな・・・。
シルク・ド・ソレイユを何とはなしに思い浮かべたり。
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