465 星暦554年 緑の月 25日 俺達専用の屋形船(13)
「・・・とろいね」
外輪船とファンを使った船の両方が一応形になって試験用の池でも取り敢えず動くようになったので、今日は海で実際に実地で動かしてみることにしたのだが・・・。
池の中だと普通に動いていると満足していた小型船だが、実際に海で動かしてみると・・・やたらと遅い。
というか、動く必要がある距離に対して移動範囲が少なすぎるという感じだ。
しかも波で不規則に揺れるし。
「蒼流、ちょっと波よけの結界をこの船に刻んでくれる?
揺れると不便だから」
いい加減、波に嫌気がさしたシャルロが蒼流に頼んでいた。
今までは小型船に乗る時は蒼流か清早に動かして貰っていたから、波で揺れるという経験が無かったんだよねぇ。
この小型船は精霊たちが居なくても動かせるということが目的なのだが・・・まあ、結界を刻んで貰えば俺達二人が乗っていない時でも揺れないで済むから良いだろう。
さて。
「揺れなくなったのは良いが・・・やはりちょっと遅いな。
取り敢えずこれは出力を上げられないか試行錯誤するとして、外輪船の方も試してみようぜ」
まあ、どちらも試運転用の池での速度はそれ程変わらなかったんだから、似たり寄ったりな速度だろうな。
岸に戻り、荷馬車から外輪を付けた小型船を水面に降ろして船に乗って岸から動かしてみた。
うん。
やっぱりとろい。
「ファンを使う船の方は速度を上げようと思ったらファンの回転速度を速くするかファンその物を大きくするかしないと思うが、この外輪タイプだったら、もう一セット推進用の外輪を付けてみたらどうだろう?」
ちんたらと動く船の上から周りを見ていたアレクが提案した。
確かに。
現時点ではど真ん中に外輪を左右に1つずつ付けているが、こないだ見た外輪船の様に複数の車輪を付けても良いかもしれない。
まあ、沢山付けようと思ったら一つずつの車輪を小さくする必要があるが。
「しっかし、魔道具で本当に船を動かせるんだな」
何故か俺達の実験についてきたセビウス氏が横に座っているフェルダン・ダルム氏に声を掛けていた。
「ああ。
まあ、人件費より魔石代の方が高そうだから買うかどうかの判断は厳しいところだが」
何しに来たんだろ、この人達?
俺達は別に売ろうと思って小型船の推進機を開発しているのでは無いんだが。
まあ、売れるなら売っても良いけど。
それとも、俺達の屋敷船が完成した際に、脱出用の小型船がちゃんと動くのを確認しないと乗らないつもりだとか?
セビウスはまだしも、フェルダンはダルム商会の船を使うだろうから関係なさそうだが。
俺達のなんちゃって屋形船ならまだしも、普通の商業用の交易船だったら小型船を漕ぐ船員が十分にいるだろうから態々魔道具で船を動かす必要は無いと思うがね。
「まあ、取り敢えず動くことは確認出来たから良いとしようか。
そう言えば、逆進の実験もしてみようよ」
波よけの結界について何やら蒼流と話し合っていたシャルロが一息ついたのかこちらを振り返って提案した。
「おう。
一応ちゃんと動くはずだが、波があるところだと想定外な反応があるかもしれないから試してみようぜ」
こないだ見せて貰った外輪船は、人力で押していたので車輪を踏む向きを変えると車輪の回転方向が逆になり、前進も後進も自由自在だった。
というか、あれって特に『前』と『後ろ』がある感じじゃあなかったな。
足で踏んで漕いでいた漕ぎ手達が向いている方向が前という感じだった。
港に着岸した時なんかに一々船の向きを変えずに進行方向を変えられたら便利かも知れないと色々試した結果、歯車をかみ合わせる方向を変えることで車輪の回転方向も変えることが出来るようになった。
この点は、ファンの船よりも便利だよな。
あちらはファンに直接魔術回路が接続されているので、ファンの回転方向を変えるのはかなり面倒なのだ。
「何をやっているんだ?」
セビウス氏が歯車の接続部分を取り外して反対向きに付け直している俺とアレクに声を掛けてきた。
「ちゃんと設計通りに後進出来るかも確認してから帰ろうと思ってね」
アレクが答える。
「ほう。後進出来るのか??」
フェルダンが身を乗り出して聞いてきた。
「多分?」
ギャリギャリギャリ!!!
どうも声を掛けられてアレクの気が散っていたららしい。
最初に向きを変えて動かそうとしたら、もの凄い音がアレク側の車輪からして船がゆっくりとその場で回り始めた。
「悪い。
ちょっと待ってくれ」
慌てて俺が魔道具止めると、アレクが歯車をしっかりと接続しなおした。
「これって片方の車輪だけ動かしたらその場で回るんだね。
だったら態々後進させる工夫をしなくても良くない?」
シャルロが提案した。
「確かにな。
ただまあ、回れないぐらい細いところに入っちまっても出てこれるように、回転方向を変えられるようにはしておいた方が良いんじゃないか?」
まあ、そんな細いところには入って行かなければ良いのだが。
とは言え、港で着岸して戻ってくる際に他の船が邪魔になっている可能性も無きにしもあらずだよな?
「後進出来るのか。
もう少し出力が出せたら、港から船を出航させるのにもの凄く便利になるかも知れないぞ?
上手くいきそうだったら是非ウチの商会に売ってくれ」
フェルダンががしっとアレクの手を掴んで頼み込んでいた。
・・・別に構わないが、ちなみにウチの事業って3人で決めるんだぜ?
アレクだけの手を握って頼み込んでも駄目なのにな~。
まあ、男と手を繋ぐ趣味は無い。
金さえ払ってくれるなら魔術回路を売りつけるのは構わんから、せいぜい頑張ってアレクと交渉してくれ。
真水抽出魔道具のことがあったので、3人組が何か船に関係する開発をしていると聞いてフェルダン氏はセビウス氏に頼み込んで見物に来ました。
アレクの手を握ったのは、これで出力を確保したら前後どちらにでも自由に動けるタグボートが作れるかも??!!と興奮しているからw
・・・タグボートってどの位出力が必要なんでしょうね?
大きな船を引っ張り出すんですから、かなりの馬力が必要ですよね・・・?