464 星暦554年 緑の月 21日 俺達専用の屋形船(12)
「へぇぇ、あれが外輪船なんだ。
初めて見た」
シャルロが港に入ってきた船を見て感心したように声を上げた。
今日は船大工のおっさんから『外輪船を半日借りられるよう話を付けた』と連絡が来たので港に来ている。
元々、港に来る用事と言えば出航する時か、以前見つけた沈没船で作業する時だけだったので実際に船はそれ程目に付かなかったのだが・・・外輪船というのは左右に幾つか大きな水車のような丸い車輪が付いていて、それがゆっくり動くことで船を動かしているようだった。
上に帆もあったけど。
「帆を付けるんだったら車輪は要らなく無いか?」
船大工のおっさんに帆を指しながら聞いてみる。
「人力で車輪を回すことで、今みたいに風が無い状況でも船を動かせるんだよ。
あまり船が大きすぎたら動かすのに必要な人数も増えちまうんで、比較的小さめな船を近海で動かすのに使う事が多いな。
ここら辺よりも南の方で良く使われているんだが、偶々こちらに寄った船があったから話を付けたんだ。
ついていたな。アファル王国に寄る外輪船なんて滅多にないんだぜ」
船大工のおっさんが肩を竦めながら答えた。
「ちなみに、外輪で動いている場合は船をどうやって操縦しているのだ?
帆で向きを調整したり出来ないよね?」
アレクが首を伸ばして船の全体を見ようとしながら尋ねる。
一昨日の試作品のファンは向きを変え、更に枠では無く棒に付けることでファンの方向を少し変えられるようにしてみたのだが・・・ファンを動かして船の進行方向を変えるのはもの凄く力が必要で、それだったら誰か一人か船の左右のどちらかに座って漕いだ方が楽だという結論になったのだ。
最悪の場合、それでも良いのだが・・・ちょっと不便だ。
「はぁ?
帆船だって向きを変えるのに帆で調整なんぞしないぞ。
船って言うのは舵を動かして方向を調整するもんだ」
「・・・舵」
ちょっと呆然とした様にアレクが呟いた。
「あ~。そう言えば、池にあった足こぎ船にも何か舵に繋がっている紐があった!!!」
シャルロが手を打って叫んだ。
おい。
そんな物が必要なら、言ってくれよ!!!!!
ファンの向きを反対にして付け替えてから、どれだけ方向変更の為に試行錯誤したとことか。
まあ、アレクとシャルロも試行錯誤や試運転に参加して一緒に疲れていたから文句を言うべきでは無いかもだが。
「そう言えばこないだ配送した小型船は舵が着いていなかったか。手こぎタイプでもあのサイズだったら舵が着いているのもあるぞ。
帰りに見ていくか?」
「頼むわ。
ついでに、その舵の部品とかも売ってくれ」
がっくりしているアレクを無視して船大工のおっさんに頼み込む。
その後、俺達の元にたどり着いた外輪船に乗り込んでまずは中を見て回った。
2段構造になっていて、下ではかなりの人数が何やらゆっくりと回っている木の板を一生懸命足で踏んで動かしている。
このサイズですらこれだけの人間がいるのか。
交易船としては、小さくて高価な物でも動かさないと経済性はなさそうだな。
まだ造っていないが、魔術回路を入手した水車で十分な出力が得られるのか??
まあ、俺達の小型船は6人程度の人間と非常用の水と食料さえ乗せられれば良いんだが。
いや、水は乗せるのでは無く真水抽出用の魔道具を入れた方が軽いかな?
1度、造ってみないとちゃんと動くのかどうかも分からんな・・・。
甲板に戻ってから船の後ろで舵を見せてもらい、更に横に着いている車輪も確認する。
「・・・考えてみると、こないだ送って貰った小型船だと横が平べったすぎて車輪を取付けにくいな。
横の側面がもっと垂直な小型船を入手してくれないか?」
舵ショックから立ち直ったアレクが船を色々見て回ってから船大工のおっさんに頼み込んだ。
「手こぎ用の小型船はこないだ送った形が標準だからなぁ・・・。
漁船の小さいのでどうだ?
あれなら魚を運ぶために容量を大きくする必要があるから、側面がもっと高く垂直に近い形のもあるぞ」
ちょっと考え込んでからおっさんが答えた。
「じゃあ、こないだのサイズとあまり変わらない漁業用の船をお願い」
シャルロがあっさり頼んでいた。
漁業用の船ねぇ。
中古で買うことを考えると・・・魚臭いんじゃないか?
今居る辺は王都の港でも商業用な船が出入りする地区だから良いが、学生の頃の沈没船探しに行ったダッチャスは漁業をやってる連中もごっちゃになって出入りしていて・・・かなりあの連中の船は生臭かった記憶があるぞ。
まあ、とは言っても上手くいくかどうか分からない試作品の為に新しく船を造らせる訳にもいかない。
いざとなったら、以前開発した換気用の魔術回路を船に付けちまうか。
脱臭効果もあったから何とかなるだろう。
漁船が魚臭いかどうかは知りませんが、勝手に臭いが染みついているだろうと想像してますw