463 星暦554年 緑の月 19日 俺達専用の屋形船(11)
「・・・思ったより大きいね」
「しかも重い」
俺達は庭に置いてある小型船へ試作した換気ファンの魔道具を取付けようと持ってきたところだった。
魔術で持ち上げるので特に苦労なく魔道具を工房から持って来れたが・・・大きい。
小型船の横幅と同じぐらい・・・いや、それ以上だな。
魔道具の魔術回路に添付されていた設計図に基づいて造っている最中も『ちょっと大きくないか、これ??』と密かに思っていたのだが、6枚のフィンを組み立てて魔術回路を融合させてみたら、想像以上に大きかった。
「まあ、本体の屋敷船が屋敷サイズなんだ。
それのオマケである小型船もそこそこ大きいし、それを動かす魔道具だって大きくなるのはしようが無いさ。
試運転してみて悪くないようだったらもっと小さく出来ないか試行錯誤していこう」
アレクが肩を竦めながら言った。
「そうだな。
取り敢えず、上下の枠を船の後部に固定してみるか」
元々、鉱山の換気孔に付ける換気ファンなのだ。
枠の中に造られた形になっているので、その枠を船に取付ける必要がある。
実用化する場合はこの枠もちょっと工夫する必要があるかも知れないな。
「上はネジで留めるとして、下は棒で船の底に固定しようか。
考えてみたら、枠に固定するのでは無く、棒に固定する形で船に対する角度を左右に変えられるようにした方が進行方向を変えやすくて良いかもしれないね」
アレクが棒を俺に手渡しながら言ってきた。
確かにな。
左右に動かないとなると、方向転換が難しいな。
まあ、今回はこれで船を動かすのに十分な推力を得られるかを実験するのが目的なので、枠のままでも構わないが。
「先に上を留めるからちょっと待ってくれ」
小型船の上に飛び乗り、浮遊で換気ファンを持ち上げて小型船の後部座席の端にネジで留める。
・・・実際に使うとなったらこのネジと後部座席の強度も確認した方が良いんだろうなぁ。
ベキ!と取れてしまったりしたら困る。
水の中で使っている時よりも、こういう風に陸に置いている時の方がファンの重さが直に船の後部座席に掛って危ないかもな。
・・・そう考えると、枠を棒に変えるにしてもどうやって船に掛る負荷を分散するかを工夫しないとあっという間に壊れそうだ。
上を留めて棒を下枠に固定し、それを船に釘で打ち込んだ。
「清早~。
この下の所から水漏れしないように結界を施しといてくれる?」
幾ら試験用とは言え、適当に釘で固定した所から水が漏れてきたら不便だ。
先に頼んでおく方が無難だろう。
『了解~。
随分と大きな魔道具だね』
フワフワと傍で漂いながら興味深げに眺めていた清早が答えた。
清早が俺の傍に居る場合はこの魔道具を使う事は無いだろうが。
興味があるから清早を乗せて船を動かしても良いかも?
換気ファンを固定した小型船を浮遊で試運転用の池に動かし、乗り込んで魔道具を起動してみた。
あれ?・・・船が動かない?
「ファンは回っているのに・・・船が動いていない気がするんだが」
横の側壁と船の位置関係を確認しながらアレクとシャルロに見て貰うよう声を掛けたら・・・アレクが笑い出した。
「いやそれ、それ後ろ向きに動いていない無いか?」
・・・確かに、さっきからゴン、ゴン、と音がしつつ船が池の後ろ側の壁にぶつかっている。
波の動きだと思っていたが、もしかして船が後ろ向きに動いているのか????
「蒼流、取り敢えず船を池の真ん中まで動かしてくれる?」
シャルロが突然蒼流に声を掛けた。
俺が何か言う暇も無く、次の瞬間に小型船は池の真ん中に鎮座していた。
「・・・確かにそちらに近づいているな」
後ろに振り返ってアレクとシャルロをみたら、二人が徐々に近づいている。
「マジかよ~。
鉱山に空気を流し込むための魔道具だからこっち向きだと思ってたのに。
付け替えないと・・・うわぁ!!!」
がこん!!!
後部座席から魔道具が動いている様子を見ようと上から覗き込んだら、突然船が後ろ向きにひっくり返った。
船から投げ出されて池に落ちた俺の上に船が被さってきた・・・と思ったら弾かれて池の側壁に船が激突した。
そして次の瞬間、俺は池の縁に立っていた。
『危なかった~~~!!
その魔道具、そこそこ速く動いている固い物体なんだから、迂闊に近づかないでね』
清早が横で声を掛けてきた。
どうやら魔道具のファンが動いている小型船にぶつかりそうになった俺を清早が救ってくれたらしい。
考えてみたら、軽量化する為に魔道具の1枚1枚のフィンを固く強くする代わりに薄くしたのだった。
あれにぶつかったら下手したらこちらの体が切れてしまうところだった。
「ありがとよ、清早。
まさか船がひっくり返るとは思ってなかったから反応が遅れた」
「大丈夫???!!」
慌ててシャルロが駆け寄ってきた。
アレクはひっくり返った小型船に浮遊を掛けて宙に浮かべ、向きを正してから設置台の方に降ろしていた。
「考えてみたら、小型船に対するこの魔道具の重さとか、力が掛ったときのバランスとか、全然考えてなかったな。
これからはもう少し気をつけないと」
小型船を降ろして小さく息をついたアレクがこちらに向きながら言った。
今までは魔道具の実験と言っても投げた小石が弾かれて当たる程度の事だったのだが、ちょっと今回は今までとは勝手が違うようだ。
気をつけよう。
イマイチ臨場感が出ない・・・。
船外機のモーターに触れちゃったら手とか足とかって千切れるらいしうので、危なかったのを清早に助けて貰ったんです。
清早も慌てて弾いたので、池の縁に船が激突しちゃいましたがw