461 星暦554年 緑の月 15日 俺達専用の屋形船(9)
「あぁ?
港や島で動き回る用の小型船?」
先日話した船大工のおっさんの方が港で破棄予定の小型船とかのことを知っているかも、ということでダルム商会による前に船大工のところに来てみたのだが・・・。
何やら睨まれた。
どうもこのおっさんにとって、俺達が提案している船というのは納得がいかない物らしい。
まあ、船と言っても名目上だけで、実質は家だからなぁ。
でもねぇ。流石に家が海上を滑っていたら周りの人が驚くだろう。
まあ、帆が無い船が凄いスピードで動き回っている姿も異常かも知れないが。
・・・そう考えたら、結局周りの人が驚くのに変わりは無いかな?
まあ、しょうがない。
「小型船程度だったら動かせる程度の推進力を魔道具で得られないかと思って、実験する予定なんだ。
今度のは普通の船として使うから、ちゃんと船として使える小型船を実験用に探しているんだけど2隻ぐらいないかな?」
シャルロがおっさんの不機嫌そうな対応を気にせずにニコニコと尋ねる。
「魔道具で推進力ねぇ。
どんな形の物を考えているんだ?」
ちょっと興味を持ったのか、おっさんが作業を止めてこちらに近づいてきた。
「どうも今までに船を動かす魔道具っていうのは無かったみたいなんで、実際に出来るかどうかは試さないと分からないんだよね~。
候補として考えている形は二種類あって、一つは鉱山とかで換気をしているファン。あれって前に立つと風に押される感じがするじゃ無い?だから船の後ろに付けたら船を押してくれるんじゃ無いかな?って思ってて。
もう一つは、水車みたいの?あれは水の流れで水車を回すけど、水車を魔道具で動かすことで水を上に汲み上げている魔道具があったから、あの動きで水を漕ぐことは可能かも?ってことで試す予定」
シャルロが答える。
船大工のおっさんが顎を撫でた。
「換気ファンは知らんが・・・水車ってことは・・・外輪船か?
あれだったら人力で動かすタイプならあるが・・・湖や川ならまだしも、海で使うのはちょっと無理じゃねえか?
それとも魔道具を使ったらそれだけ出力が上がるんかね?」
おや?
水車を使う船って既に存在するのか?
湖や川では大丈夫で海は無理ってどういうことなんだ?
シャルロが手を叩いた。
「あ~~~!!!!
そう言えば、お祖父様の領地にあった湖に足こぎ船があったね!!!
そうか、あれって水車が下についているんだ??!!!」
呆気にとられて二人を見ていた俺とアレクを無視して、シャルロが首を振っておっさんに注文を付ける。
「いや、ああいうお遊び用の小さな船じゃあちょっと小さすぎるし、確かにあれって湖とかじゃなきゃ使えないよ~。
その外輪船でもう少し大きめなのってないかな?
船が既に存在するんだったらそれの動力だけ付け替えるので済んだら楽かもしれないし」
おっさんが肩を竦めた。
「まあ、港の中や陸の近海を動き回る用の外輪船ならそれなりにあるだろうが・・・今売りに出ているかどうかは知らんぞ。
大体、どの位のサイズを考えているんだ?」
「そうだね~・・・」
答え始めた言葉が途絶え、シャルロがこちらに向いた。
「・・・どのくらい?」
「普通に4人乗りでちょっと荷物を載せられて、無理したら8人ぐらい乗れる程度かな?」
アレクが答える。
沈没船を探すときに借りた小舟を少し大きくした感じだな。
船大工のおっさんが首を横に振った。
「外輪船は人力で動かす分、風が無くても動くが動力になる人間を乗せなきゃならないからそれなりのサイズじゃ無いと実用性がないんだ。
湖で遊ぶタイプじゃないのが欲しいんだったら、もっとずっと大きくなるぞ」
「ちょっと1度その外輪船っていうのを見せて貰えるか?
どういう風に水車が使われているのかを見て、現存の外輪船を改造するか、普通の小型船を改造して外輪船にするか考えたい」
あまり大きいんじゃ持って行くのが邪魔だからな。
普通の小型船を改造する方が現実的な気がする。
なんだったら外輪船を借りてどういう風に機能するのか試しても良いかもしれないな。
動かすのに人力がかなり必要なら、漕ぎ手と一緒に借りないとだが。
「船って言うのは中古でも店に行ってほいほい買うようなもんじゃあないんだよ。
取り敢えず、あんた達が言っているような外輪船や小型船が売りに出ているか聞いてみるから、また2、3日したら来てくれ」
どうやら興味を失ってしまったのか、俺達に指示を出しながらおっさんは作業に戻ってしまった。
2、3日で見つかるんかね?
考えてみたら、服を買うのですらあれだけ大変だったのだ。
船を買うのって実はもっと大変なんじゃないのか??
シャルロと船大工の話している足こぎの船って湖とかにあるアヒル船みたいののことですw
金持ちの道楽に使われるので、たいていの場合は自分で頑張って漕いでいるのでは無く、下男に漕いで貰っているんですけどね。