459 星暦554年 緑の月 11日 俺達専用の屋形船(7)
ウィルの視点に戻ってます。
「お風呂場は喫水線より下の貨物室の横に作って壁から直接水を取り込むように設計して、魔道具で真水を抽出しておいてお湯を溜めておくスペースを作っていつでも適度な量の綺麗なお水とお湯が準備されるようにしようよ。
ちょっとお風呂上がりに船内を歩き回ることになるけど、まあそれはしょうが無いと言うことでお客様にはちゃんとバスローブを持ってくるように言っておけば大丈夫だよね?
でもやっぱり人前に出る前に顔は洗っておきたいから、洗面所はお風呂場からのお湯をポンプで各階に引き出せるようにデザインしない?」
シャルロがざっとした船の設計図を見ながら提案した。
ダルム商会から紹介された船大工はかなり目を白黒させていたが、先日の試航海のお陰で本当に『安定性も防水性も考えなくて良い船』というアイディアに納得してくれたらしく、俺達の要求に基づいた船のざっとした設計図を2日で作成して送ってきた。
それでも精霊の加護が無ければ直ぐさま転覆する船というのは許容出来なかったのか、上に背の高い船になったのをバランス取るために水面下に海水を溜めておくタンクのような物が両側にあるデザインになった。
『普通の船だったらこんな物があると水の抵抗が増しちまうが、この船には関係ないんだろ?』とのこと。
普通は船のデザインその物がもっと下の貨物スペースを多く、上の部屋を少な目にすることで自然に重心が下になるようにしてバランスを良くするらしいが、俺達はそこまで大量の貨物スペースは欲しくなかったのでこんな形になった。
まあ、確かに港で停泊している間は、シャルロや俺に何かがあっても少なくとも即座に転覆しない方が良いよな。
防水に関しては精霊の結界を船体に刻んで貰えば清早や蒼流の継続的協力が無くても大丈夫らしいのだが、幾ら水が入ってこないとしても横向きに倒れて沈んでしまっては色々と不便だろう。
「台所にもその水を引いた方が良いだろうな。
あと、お湯だけじゃ無くて水も必要だぜ。
食材によってはお湯で洗ったら味が落ちる物もあるらしいし、顔を洗うのだって冷たい水で目を覚ます必要がある人間もいるだろ?」
シャルロみたいに。
まあ、シャルロの場合は蒼流が冷たい水を洗顔用に出してくれるだろうから必要ないと思うが、他にも寝起きが悪い人間はいるだろう。
「後は・・・各部屋にベッドと小さめの箪笥を備え付けにして、想定外にお客さんが来た時用に角に1箇所ハンモックをつるせるようにフックを設置しておこうか」
アレクが指で小さな四角を設計図になぞりながら提案した。
「そうだね~。
ハンモックを使えば寝られる場所が倍増するから、急に沢山の人が遊びに来ても何とかなるよね。
フックとハンモックだけだったら場所を取らないから、一つと言わず、2つハンモックをつるせるようにしておこうよ。
甥っ子や姪っ子が大きくなったら子供が沢山来るかも知れないし。
後は・・・僕やウィルが居なくてもアレクや他の人が身動き取れるように、自分で動かせる小型のボートを船に乗せておく方が良いかな?」
シャルロがお湯を沸かしに立ち上がりながら言った。
確かに。
それこそ、どこかへ探索みたいなのに出かけた際に、ちょっと近くを見て回るのにも俺かシャルロが居なければ完全に動けないというのは勿体ない。
だが。
「小型ボートって言っても・・・手こぎか?
それとも帆で動くのか?
精霊の助けを借りないとなったら、小型のボートでも動かすのはそれなりに大変じゃないか?」
今までは沈没船探しやパストン島の周辺を見回す時などに小さなボートを使った時だって清早か蒼流に頼んで動かしていた。
小さくてもあれを自力で動かすとなると、それなりに大変なんじゃ無いか?
アレクが顔をしかめた。
「小さめなヨットみたいなのにしたら一人でも帆で動かすのは可能らしいが、私には出来ないな。
何か魔道具で動かせるボートを作れないか、調べてみよう」
送風機をもっと強くしたのを造ってそれを水中に突っ込んで水を押して船を動かせるかな?
もっとも、空気と水では抵抗が全然違うだろうし、なんと言っても水をかき混ぜることで船を動かそうなんてなったらもの凄い出力になるかも知れないから、可能かどうかは知らないが。
取り敢えず、魔術院でまた検索だな。
『小型ボート』と言っても、もしもの時の為に非常食とか水の抽出機とかを入れられるようにしなくちゃ~とか言っている間に大きくなっちゃいそうw