453 星暦554年 緑の月 5日 俺達専用の屋形船
「次は何をしようか?」
朝食を食べ終わってまったりとお茶を飲みながら、俺達は3人でこれからの予定を相談していた。
かなり長いこと王都から離れていたので色々と細々とした用事が溜まっていた為、ここ数日ほどバタバタしていたのだがやっとそれぞれの用事が終わり落ち着いた。なのでそろそろ次の事業に関して話し合おうかということになったのだ。
「パストン島にいる間に思ったのだが、通信機だけだと場合によっては不便だから、転移門の小さなバージョンを作って書類だけ転送できるような魔道具が出来たら便利だと思わないか?」
アレクが提案した。
書類ねぇ。
俺にはあまり関係ないが・・・商会だったらもの凄く需要はありそうだな。
だが。
「転移門の詳細って公開されていたっけ?
一応理論は魔術学院で習ったけど、実際の魔術回路は見せて貰ってないよな?」
改ざん防止の為かも知れないが、魔術院にある転移門の魔術回路は心眼でも見えないようになっている。
「持ち運びできる形にするの?
その方が便利だろうけど、そうなると王宮の中とかに危険物を持ち運べて危なくない?」
シャルロが軽く首を傾げて尋ねた。
お~。
シャルロにしては現実的で鋭い指摘じゃん。
確かに、武器の持ち込みが禁じられている謁見の間や議会の会議場なんかにそっとミニ転移門を設置して武器や魔道具を持ち込まれたらヤバいよな。
まあ、パストン島とかどっかの町の支店とのやり取りだったら持ち運び式ではなく設置式のにすればその問題は無くなるかもしれないが。
とは言え、小さいから勝手に設置されたら困るという問題は残るか。
「転移門を勝手に設置できないようにする結界とかって存在するのか?
でも、あるとしても私達の発明のせいでそんな結界を重要な場所全てに設置する羽目になったら恨まれてしまうかもしれないな・・・」
ため息をつきながらアレクが呟いた。
「魔術院で聞いてみたら?
成功するとは限らないけど、開発しようと考えているから取りかかる前に問題点を知りたいんですって事で。
ウィルも学院長に、王宮側から駄目って言われるかどうか聞いて貰えない?」
シャルロがクッキーに手を伸ばしながら提案した。
朝っぱらから、食事を食べ終わった後だと言うのによく甘い物を食べるなぁ・・・。
思わず胸やけしそうな気分だったが、言っている内容は理にかなっているので頷く。
「分かった。後で学院長のところに聞きに行ってくるよ」
アレクも頷いて合意していたのを見て、シャルロがしゅたっと手を上げた。
「じゃあ、取り敢えずミニ転移門は暫く保留ということで、その間に僕たち用の屋形船を造らない?」
なるほど、やりたいことがあったから珍しく鋭い突っ込みを入れまくっていたのか。
「屋形船って・・・この屋敷に不満があるのか?
だが、海や川に態々屋形船を浮かべて住む利点がイマイチ見えないが・・・」
シャルロが首を横に振った。
「違うよ。
こないだウィルが清早に頼んで私掠船をパストン島から王都まで送って貰ったでしょ?
あれが4日で着いたって聞いて、考えたんだ。
僕かウィルがいれば、僕たちの船は別に帆を使う必要ないよね?
だから乗組員は要らない。
こないだの私掠船みたいに1日中海を進んで貰えば良いんだから、僕たち用の部屋と、お風呂場と、台所と、客室がある屋敷を船の形にして建てたらどうかな?
清早や蒼流に急いで貰えば、東の大陸まで転移門で行ってその後船でパストン島まで行くのと殆ど掛る時間は変わらないで向こうに着けると思うし、宿に泊まるよりもずっと快適に時間を過ごせると思うんだよね~」
ふむ。
これからもちょくちょくパストン島に行って開発とかの手伝いをするなら、それも悪くないかもな。
俺達だけで行くなら宿屋や食堂に食べに行けば良いし、パディン夫人が旅行に興味を持ってくれたら客室を使う代わりに料理をお願いすれば良いし。
これならシェイラやケレナをパストン島や東大陸へ誘いやすいかも知れない。
「良いかもしれない。
また沈没船探しをすることになった場合にも、港の宿に泊まらなくて済むというのは効率的だろうし」
アレクもゆっくりと頷いた。
「じゃあ、次の開発は僕たちの屋形船ね!」
新しいクッキーを手に取りながら、シャルロが声を上げた。
売り物にはならないが、面白そうだ。
・・・しっかし、これだけ甘い物を食べて太らないシャルロの体質って本当に不思議だぜ。
開発や防衛協力で少し政府からお金を貰っているので(持分相当以上に頑張ったので、差額決済という感じ)、売り物じゃ無い屋形船の開発に乗り出しちゃいましたw