447 星暦554年 翠の月 10日 新しいことだらけの開拓事業(19)
「ガルカ王国はザルガ共和国に宣戦布告したぞ?」
久しぶりに王都に戻ってきて、戦争がどうなったのか気になったので学院長の所に顔を出したら思いがけない話がもたらされた。
「はぁあ?
ザルガ共和国って・・・ガルカ王国の南側にある商人が集まって作った都市国家ですよね?
あんな所を攻めたところで、食料品は手に入らないと思いますが・・・ガルカ王国って切実に食糧難だったんじゃなかったんですか?」
ザルガ共和国と言えば、海沿いの都市国家である程度漁業は発達しているものの穀物は基本的に輸入に頼っている国だと聞いた気がする。
お湯を沸かしてポットに茶葉を入れながら学院長が肩を竦めた。
「金はあるからな。
それで輸入すれば良いと思ったんだろう。
アファル王国もガルカ王国なんぞと戦争して下手に勝ってしまっても後始末が大変なだけだから、態と南側に軍艦を集めて威圧し、更に南方に陸軍を繰り出してみせていたらしいからどうやらガルカ王国は他を狙うことにしたようだな」
なるほどね。
それこそ、前回の軍部からの依頼で得た情報で侵略の準備をしているらしき場所に軍艦を送り込んで威嚇したのか。
だが。
「ザルガ共和国は傭兵を雇ってプロが国防を担っていると聞いた気がしますが?」
学院長がお茶を淹れたカップを渡してくれた。
「なんでも、ガルカ王国の状況が危ういということで西隣のパラミティス王国も危機感を抱いたようでな。
そこも傭兵を雇い始めたせいでザルガ共和国の守りが弱くなったという噂が流れたようだ」
にやりと笑った学院長の顔が何かとても悪どく見えたのは気のせいなのだろうか・・・?
戦争が始まった後ならまだしも、その前の段階での国防には学院長は関係してないよな?
「で、実際の所は?」
パラミティスなんて、芋と小麦しか取れないような田舎の農業国だったはずだ。
特に目立った産業も資産も無いからこそ碌な防衛力が無くてもどこからも侵略されなかった国だと聞いた。今更慌てて傭兵を雇ったところでたかが知れているだろう。
「防衛力が下がったという噂とザルガ共和国の富に目がくらんで宣戦布告したようだが・・・あそこが雇っている多数の傭兵団のうちの一つや二つが抜けたところで殆ど違いは無いだろう。
まだ開戦したばかりだが、ガルカ王国が惨敗するのはほぼ確定しているだろうというのがウォレン・ガズラートの意見だ。
どうやら我が国の軍部がザルガ共和国とガルカ王国に情報戦で勝ったようだな」
おやまあ。
ザルガ共和国にガルカ王国を押しつけるために、傭兵が減っているって噂を流したのかよ??
もしかして、パラミティス王国に傭兵を雇う金を貸したのもアファル王国だったり?
まあ、こちらに面倒なことが起きないならそれは助かるが。
ザルガ共和国も可哀想に。
「どうせザルガ共和国の商人どもは今までガルカ王国のテリウス神殿のお偉方や王族に色々と売りつけて散々儲けてきたんだ。その利益を少しぐらいあそこの国民を助けるのに使ってもバチは当たらんだろう。
それよりも、パストン島の方はどうなったんだ?
暫くあちらに行ったっきりだったようだが」
茶請けにクッキーを出しながら学院長が聞いてきた。
シャルロと交代でしか休めなかったからかなり長いこと王都には戻ってなかったんだよね。下手に戻ってきてまた軍部に依頼を押しつけられても面倒そうだったし。
とは言え、いい加減どうなっているのか気になったので今回は戻ってきたのだが・・・いつの間にかアファル王国では無く他の国と戦争になっていたのは驚きだ。
「大分進みましたよ。
港町の周りの防御壁も、水源からの用水路も終わったし、町の中の建物もかなりの数が完成しました。
とは言っても、家具や実際にその建物を使う人間が揃っていないので町としての機能はまだまだこれからと言うところですが。
流石にいつ攻め込まれるか分からない開拓島に来て新しく商売を始めようと考えるほど冒険心に富んだ人間はあまりいないようですね」
水精霊に守られた島の方が、戦争が起きたらどこよりも安全なのだが・・・流石にそれを大っぴらに広めて人を集めるわけにもいかなかったからな。
俺とシャルロだって半永久的にあそこに滞在する訳ではないし。
とは言え。
防御壁と用水路が終わったから、後は俺達がした方が効率的なことって何があるんだろう?
今度ちょっとジャレットとしっかり話し合ってみる必要があるな。
ガルカ王国との戦争が起きないなら俺とシャルロがあそこに滞在しておく必要も無いし。
『惨敗するのはほぼ確定』している戦争って終戦するのにどの位時間が掛るんだろう?
一応、終戦して状況が落ち着くまでは島に居た方が良いよな?
シャルロがケイラと話すために作った長距離用携帯式通信機が軍部によって活用されてますw