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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後3年目
438/1295

438 星暦554年 紺の月 26日 新しいことだらけの開拓事業(10)

年末の祝いにシェイラには手作りの携帯用通信機を贈ったのだが、動力源となるスーツケースを持ち歩こうと思ったら馬車で移動する必要がある上、長距離からの通信だと動力が足りなくって殆ど通話が出来ない。

なので基本的にシェイラはあれを遺跡発掘現場に置きっぱなしにしている。

今回の王都へ戻った際に、あれを持ってきてくれたんかな?


そうだと連絡が取りやすいのだが。

アンディと別れた後に、通信機を試してみたところ・・・繋がった。

「あらウィル。

これって遠方からだと繋がらないんじゃなかったの?」

シェイラの最初の挨拶はちょっと色気が無かった。


もう少し、『話せて嬉しいわ~』的な事を言ってくれても良くない?

こちらはシェイラのことを心配して慌てて王都まで戻ってきたのに。

「5日ほど休みを貰ったんで、シェイラに遊びに来ないかと誘おうと連絡を取ったら王都に戻ったと聞いて俺もこちらに来てみたんだ。

今どこに居る?」


ふぅ。

シェイラのため息が通信機から聞こえてきた。

なんかちょっと、扱いが酷くないか?


「戻ってこなくても良かったのに。

今、実家に居るんだけどウィルに来て貰うのは不味いわね。

もうそろそろ下宿先に帰ることにしようと思っていたところだから、私の部屋・・・ではなくって、傍の『グリル亭』で会わない?」

ふむ。

実家に来るなと言うことは・・・やはり何か問題が起きているようだ。

とは言っても、シェイラからしてみれば俺に助けを求めなくても良い程度の問題。

それでも俺が顔を見せたら実家の連中には泣きつかれかねない問題と言うところか。


まあ、深刻な問題では無いようで良かった。

「了解。

じゃあ、後で」


◆◆◆◆


『グリル亭』はシェイラの下宿先の傍にある食事処だ。

そこそこ美味しい料理がそこそこの量と値段で提供されているため、近所の人間の夕食処として愛用されている。


シェイラは一応料理も出来るらしいのだが、基本的に俺が知り合ってからずっと本拠地を遺跡発掘現場にしているため、食材の準備が無いとのことで偶に王都で会う時は『グリル亭』やその他幾つかの近所の店を使う事が多かった。


幾つかある食事処の中で、グリル亭は店の人間に頼めば個室も借りられる点が今回選ばれた理由なんだろうと推察して、個室で待っていたらシェイラが現れた。

「お久しぶり。

次に会えるまでにもっと時間が掛ると思っていたけど、随分と早く休みになったのね?」


「どうやら俺達の仕事ぶりが早すぎて、監督する人間達が追いつけないと泣きつかれちまってね。

5日ほどあいつらが一息つく間休んでいてくれと言われたんだ」

立ち上がってシェイラを向かえ、ハグをしながら答える。


「ふふふ。

国土省の開拓部の人が泣き付くほどだなんて、一体どれだけ頑張ったのよ、貴方達。

この分だったら私が遊びに行ける日も遠くなさそうね?」

席に着きながらシェイラが笑った。


「土地や水の準備は俺達で出来るが、流石に宿屋や店を作るには大工が建築する必要があるからそこまで時間は短縮できないと思うぜ。

それはともかく。

シェイラはどうして王都に戻っているんだ?弟に呼び出されたようだって宿の女将さんは言っていたけど」

ワインをグラスに注ぎながらシェイラに尋ねる。


ふう。

またもや小さくため息をつきながら、シェイラがグラスを手に取った。

「馬鹿兄貴が、船を出しちゃったのよ。

しかもガルカ王国の私掠船に捕まったらしくて、身代金の要求が父の元に届いたって」


なるほど。

私掠船か。

ガルカ王国に拿捕されたとしたら、戦争が始まる間際なのかと思っていたが・・・私掠船となると一段階緊迫度が下がるな。

国的には。


捕まった人間的には却って扱いが悪くなって危険かも知れないが。

「ガルカ王国の私掠船って・・・今まではどうしていたんだ?

偶々見つかって捕まっただけなのか?」


シェイラが肩を竦めた。

「私掠船というのは基本的に潜在敵国の民間船を襲う海賊と海軍の間の存在なのよ。

海軍寄りのきっちり規律が整った国の言うことを聞く連中もいれば、海賊と殆ど変わらないような自国以外の船は見境無しに襲う様なのもいる。

まあ、ガルカ王国にとっても『自国の船を襲わせないように私掠船と認めていますが、殆ど海賊で自分達の命令を聞いてくれないんですよ~』としらばっくれる事が出来るからそう言う連中がいるのも便利なのでしょうね。

だから特にたちが悪い連中にはそれなりに商会の方から通行料を払ってきたのだけど・・・馬鹿兄貴が今回の船に対して通行料を払わなかったのか、それともガルカ王国が態と私掠船をけしかけてるのか、どちらか知らないけど捕まったようね」


「何か手伝おうか?」

流石に海賊の本拠地にでも拘束されているのならばどうしようもないが、海に浮いている船の中に謹慎されている程度だったら清早の助けを借りれば何とかなるかも知れない。


シェイラが首を横に振った。

「要らないわ。

元々、私も父も馬鹿兄貴を助けるつもりはないから。

単に、兄貴の取引先とか一緒に船を出した連中で切実に困っている人が居たら取り敢えず手を差し伸べているだけなの。

どさくさ紛れに賠償要求をしているのか、本当に困っているのかの見極めが大変で、その手助けに呼ばれただけだから、ウィルに助けて貰う必要は無いわ。

それでも実家の方に顔を出したら『魔術師なら救出できるんじゃないか』なんて騒ぐ阿呆が出てくるかも知れないから来ないでくれって言ったけど」


完全にあの馬鹿兄貴は切り捨てられたようだな。

シェイラを呼び出した弟君はそこら辺を分かってて見極めの手伝いの為にシェイラを呼んだのか、それとも兄を助けたいと思って呼んだのか、興味があるところだが。


「そうか。

折角5日休みがあるんだが、流石にその状況じゃあ一緒に東の大陸まで遊びに行くのは難しそうだな。

しょうが無いから適当に町を探索して、シェイラが来れた時に案内できるよう店を開拓しておくよ」

王都に残ってシェイラと食事だけでも一緒にしても良いが・・・ちょっとやることが無くて退屈そうだからなぁ。

下手に魔術院とかに顔を出したら戦争準備なり情報収集なりに駆り出されそうだし。


ちょっと残念だが、ここは姿を消すのが正解な感じだな。


馬鹿兄貴は見捨てられました~。

と言うことで、ウィルの活躍の場は無し!

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