436 星暦554年 紺の月 26日 新しいことだらけの開拓事業(8)
結局、東の大陸の領事館にたどり着いたのは夜に近かった。
考えてみたら、日が暮れてから到着した場合、町の明かりで街そのものにはたどりつけても領事館を探すのは至難の業だったな。
完全に暗くなる前にたどり着けて良かった。
領事館の庭に空滑機を降ろして物置に運び込み、魔石を外して領事館の中へと足を進める。
一応出発する前に連絡は入れてあるので(そうでないと庭へ着陸した瞬間に攻撃されかねない)、部屋も準備してくれているはずだ。
・・・考えてみたら、この領事館の防犯ってどうなっているんだ?
別に上空に結界が張ってある様子はなかったが。
まあ、王城じゃないんだ。上空に防御結界や探知結界なんぞ普通は張らないか。
だとしたら連絡なしでも来れたか?
「そう言えば明日からケレナが来るんだけど、シェイラも来るの?
時間が合いそうだったら二人合わせて転移門を動かしても良いよ?」
部屋に案内されながらシャルロが言った。
「え、ケレナが来るのか?
いつの間にそんな手配をしたんだ?」
流石に偶然とは思えないが・・・休みを言い渡された後、俺が固定式通信機を領事館との連絡に使っていたのにケレナと連絡を取る暇なんてあったのか?
「ケレナといつでも話せるように、携帯用の通信機を二人用に調整したのを作ったからそれで連絡したんだ。
普通の携帯用通信機じゃあアファル王国まで通信を届けられないけど、ケレナとだけ話せればいいんだから、大き目の魔石を専用に手配して埋め込んだ通信機を作ったんだ」
シャルロがにこやかに教えてくれた。
なるほどね。
携帯用通信機はもともと携帯できることに主眼を置いているから連絡が取れる距離は短めなのだが、共振させる魔石を1セットだけにして、それに強力な魔石を使えばこの距離でも通話できるのか。
俺もシェイラ用に作るべきか?
だが、どうせ夜にちょっとしか話さないしなぁ。
シェイラも遺跡で忙しいから、宿に居ない時間に連絡しても無視されそうな気がするし。
まあ、どちらにせよそんな魔石を入手するにはそれなりに時間と費用が掛かるから、これはまた今度だな。
「へぇ、考えたな。
俺はこれからシェイラに連絡して予定がどうか聞いてみるから、折角だけど遠慮しとくよ。
シェイラが来られるとしても、王都まで出てくるのに時間がかかるだろうからケレナを待たせることになって悪いし」
「分かった。
お休み~」
あっさり頷いてシャルロへ案内された彼の部屋へと入っていった。
俺はまず、シェイラを捕まえないとだな。
今の時間だと・・・宿にいない可能性が高そうだ。
伝言を頼んでおくことになりそうだな・・・。
◆◆◆◆
「あら~、シェイラちゃんなら今朝王都に戻ったわよ?
昨晩、弟さんから何やら緊急の連絡があったらしくって」
宿屋に繋がって女将さんと話したら、なんとシェイラは王都に戻っているとのこと。
???
何があったんだ?
しかも弟に呼び出されたとは。
親父さんが倒れたとかなのか?
取り敢えず、王都のシェイラの部屋の大家に連絡を入れた。
シェイラの事を聞いたら『あら、何かあったの?部屋には戻っていないわよ?』と言われた。
じゃあ、実家か?
う~ん。
アレクの実家なり歴史協会なりに連絡してシェイラの実家の連絡先を聞くよりは、自分で戻った方が早そうだな。
うむ。
これに懲りて、大切な人の家族の連絡先もちゃんと控えるようにしよう。
シャルロの婚約式の騒動で学んでおくべきだった・・・。
「シャルロ、ちょっとシェイラの実家で何かがあったっぽいんで王都に戻るわ。
もしも5日で帰れそうになかったら連絡するから、何かあったら宜しく」
シャルロの部屋に首を突っ込んで、一応知らせておく。
これから風呂に入るつもりだったのか、タオルを手に丁度部屋を出ようとしていたシャルロが、首を傾けた。
「大丈夫?」
「シェイラ本人に問題は無いみたいだからな。
親父さんが倒れたのかも知れないが、まあ大丈夫じゃないか?」
ある意味、親父さんが倒れたんだったら俺が行ったところで出来ることは無いが・・・まあ、久しぶりにシェイラに会いたいし、何があったのかと心配するよりは戻った方が良いだろう。
「分かった、何か手伝えることがあったら言ってね」
そう言ってくれたシャルロに手を振り、下へと急ぐ。
荷物はそのまま持っているからこのまま転移出来る。
さて。
何が起きたのやら・・・。
考えてみたら、シェイラの母親って出てきてませんよね??
自分で書いてながら記憶が信頼できない・・・(汗)。