434 星暦554年 紺の月 25日 新しいことだらけの開拓事業(6)
ジャレット氏の視点からの話です。
>>サイド ジャレット・デヴァナン
「あれが上空から見えていた西寄りにある木ですね。
地図に記入しておきましょう」
騎獣から降りたアレクが、地図と周辺を見ながら何やら頷いている。
そんなアレクを放って彼の使い魔であるユニコーンが走り去って行った。
「ふう」
自分も馬から降りて、大きく伸びをしながら息をつく。
・・・疲れた。
島に到着する前は魔術師3人組の色々な提案にわくわくしながら部下と新しい町づくりの計画を色々立ててきたのだが・・・到着してみたら、彼らの作業の速度に自分たちは追いつくのが精いっぱいという感じで、この3日はひたすら追い立てられるように働いてきた。
やっと港町の予定地の線引きを終えたと思ったらあっという間に地ならしが終わったため、予定する建築物の線引きを行うことになり。
それが終わったら今度は牧畜に使う地域や水源の確保の有無を見るためにアレクと遠出することになった。
ちなみに、部下たちの半分は港町の予定地での建築を監督しており、残りの半分はシャルロと一緒に泉からの用水路の予定地の線引きに行っている。
この様な島での開拓の場合、家畜の移動は開拓がある程度進んでから行うことが多い。
家畜の輸送はかなりの場所を取るし、初期に開拓地に入る人間は建築や土木関係の人間が多く、農業関係者はそれらの準備が整ってから来ることが多いので先に家畜を運び込んでも面倒を見る手間が無駄になる。
馬は居た方が周辺の見回りが効率的に行えるが、あれは繊細で神経質な動物な為、どっしりとした牛などと一緒に輸送した方がストレスで弱りにくいとされている。
が。
今回は『自分が乗っている船で移動させる方が動物が大人しくしてくれるので消耗が少なくなる』とアレク・シェフィートに言われた為、半信半疑ながらもそこそこの人数が移動できるだけの馬と、少数の牛と羊を連れてきた。
特に馬は船で移動させた後は暫く使い物にならないことが多いのだが、いつの間にか家畜たちに交じっていたアレクのユニコーンが魔法でもかけたのか、どの家畜もまったりしていて上陸した時も健康そのものだった。
想定外に便利だったが・・・ユニコーンって処女にしか懐かないの幻獣ではなかったのか?
それなりにストイックな感じがあるアレクの方がウィルが召喚主と言われるよりは違和感がないが・・・ある意味、少女のような純真さで言えばシャルロの方が少女っぽい気もする。
本人達が聞いたら怒りそうなことを取りとめもなく考えながらあちこちのこわばった筋を伸ばしていたら、アレクの使い魔が戻ってきた。
「ふむ。
ここら辺では草は1年中生えてはいるものの、水飲み場となるような場所は雪解けの春から初夏までしか流れない小川だけの様ですね
他の場所も確認してみる必要がありますが、夏から冬までを放牧する場所が無かったら井戸でも掘る必要があるかもしれません」
何やらユニコーンに伝えられたアレクが言ってきた。
「先ほどのくぼ地は雨が降ったら水が湧くとの話でしたよね?
草が1年中生えているということはそれなりの頻度で年間を通して雨が降るのでしょうから、さっきのくぼ地を少し掘れば年間を通して水を提供できるため池にできると思いますよ」
どこに井戸やため池を造るべきかといったことに関しては自分たちがプロだ。
だが、そういった判断を下すためには年間を通しての情報を入手する必要があり、通常は情報を蓄積するまで開拓もなかなか進められないものなのだ。
が。
普通ならば何年間か通して観察する必要がある、新しい開拓地の植生や水が年間を通してどのような状態になるかと言った自然の情報をアレクの使い魔はユニコーンとしての能力の一つとして読み取れるらしい。
もしくは野原の生き物から情報を得ることが出来るのか。
シャルロやウィルのように直接的に建設に携わる能力ではないが、この使い魔の能力も開拓においては得難い情報を提供してくれる。
本当に開拓する為に生まれてきたような3人組だな。
だが、おかげで出来ることが有りすぎて自分や部下が目が回るほど忙しい。
普通の開拓だと、計画を立てても地ならしやら情報収集に時間がかかって現場監督は比較的のんびりと計画の策定や修正に取り掛かれる。
それが今回は計画を立てた途端に実行されてしまって、やれることに計画が追い付けないという前代未聞な状態になっている。
いい加減、この3人に休みを取ってもらわないと自分や部下たちが倒れそうだ。
暫く東の大陸にでも遊びに行くよう、何とか誘導できないかな・・・?
有能すぎる手伝いがいると、指導員は凄く忙しくなるようですw