043 星暦550年 紺の月 17日 遺跡(3)
ラッキーだったと思うか、不幸だったと思うか。
微妙に判断しにくい運命(と言うほど大きな話じゃないけど)の悪戯だった。
「ありがとう、蒼流」
床にへたり込んだシャルロが守護精霊にお礼を言った。
「別に生命に危険は無いから放置していたのだが・・・もっと早く助けた方が良かったか?」
蒼流がシャルロに尋ねた。
おや珍しい。
過保護精霊が声を出して話している。
この守護精霊、物凄く過保護で基本的に常にいつでもシャルロと一緒にいるのだが大抵声を出さずに心話で済ませることが多い。
もしかして俺たちにも悪いと思ったのかな?
・・・そういえば考えてみたら、俺にも一応守護をすると言ってくれた奇特な精霊がいたんだっけ。
シャルロの程べっとり一緒にいないからあまり『守護』として意識していなかったが。
「・・・清早?」
試しに呼んでみる。
「何だ?」
シュワ!という感じに突然目の前に清早が現れた。
「もしかして・・・清早でもさっきのゴキブリモドキの魔物を退治が出来てた?」
ニパ!
清早が笑う。
「勿論だ。でも、あんなのに困ると思っていなかったから気にしていなかった」
「あれ、ここにいなかったのにアレに追われていたこと、気がついてたの?」
蒼流はいつも通りシャルロの傍にいたが、こいつは一緒には来ていなかったぞ。
近所の湖に遊びに行くと言っていたのに。
「その位、俺様の能力を持ってすれば朝飯前さ!」
清早が胸を張って答える。
が。
「・・・だけどウィルがあんなのを怖がると思わなかったから何もしなかった」
ちょっとがっかりしたように付け加える。
怖がったんじゃないやい。
ただ・・・嫌だったんだよ!
「いくら五体満足な魔術師の卵3人にとっては命の危険が無いとは言っても、あんなのが棲みついていたら近所の子供や若者が忍び込むのには危なくないか??」
アレクがシャルロに尋ねた。
シャルロが首をかしげた。
「確かに、ねぇ?不思議だね」
「今年の冬は暖かかったから異常増殖したようだ。
しかも去年の夏にあった地震のせいで地階の封印が損じられて、あやつらがこの階に出てくるようになった」
蒼流がシャルロに教える。
へぇぇ。
下の階は封印されていたのか。
ということは、今まで来た学者や冒険者は見ていない可能性が高いじゃないか!
適当な岩に座り込んで、下を心眼で探索する。
良く視たら、床全体に巧妙に目隠しの術がかけられている。
直接視るのを防ぐのではなく、『視ても何もない』と人に無意識に思わせる。
どれだけ優れた心眼があっても使わなければ秘密の部屋は見つけられない。
もう一つ下の階がある、と分かって視れば目隠しの術は蜘蛛の糸のようにあっさり破れた。
サイズとしては・・・直径でこの階の半分ぐらいか。
先ほどのゴキブリモドキがまだ下にはそこそこいるようだ。
あとは・・・。
家具とかが残っている?
魔力が込められていないので視え難いが、この階よりも色々モノがある。
魔具の手ごたえはないけど。
「清早」
折角だから傍にいる精霊に声をかける。
「下にいる、ゴキブリもどきも全部処分しちゃってくれない?」
「了解~」
何かが出来るのが嬉しいのか、ご機嫌な清早が答えた。
考えてみたら、こいつと無駄話をすることはあっても、何かを頼んだことってないよなぁ。
もしかしたら、頼られるのって嬉しいのかもしれない。
今度からもう少し遠慮せずに頼みごとをしてみるか。
別に断られたら自分でやればいいんだし。
甘え癖をつけるのは危険だが。
「完了!
ついでに、入口も開けてあげる!」
嬉しげに清早が言って、左側の床をさわる。
音もなく、床が沈み下り階段が姿を現わした。
これって、こいつがやったんだろうなぁ。
遺跡って勝手に階段を作ってもいいんだろうか?
まあ、下に部屋があることが分かったんだ、どちらにせよどこかを壊して降りるしかなかったけど。
「よし、探検だ!
誰も見たことが無い階を発見するなんて、兄様たちが悔しがるぞ~~」
嬉しそうに言いながらシャルロが階段を下りていく。
うん、確かに面白そうだ。
なんだってこんな閉鎖された階があるのか、見て回ったら分かるのかなぁ・・・。