429 星暦554年 紺の月 12日 新しいことだらけの開拓事業
「いや~実用性の高い新規航路なぞ滅多に見つからない上に、自立できるような規模の都合の良い補給島が我が国の物になって一から開拓できることなど殆ど無いのですよ。
今回は開拓事業部にとっては大昔から伝わる手引き書が本当に実用性があるのか試す、願ってもいなかった機会ですからね。
今回の現場担当者になる競争は本当に熾烈でした・・・」
ずんぐりむっくりとした大型船の上で俺達を迎えてくれたのは、国土省の開拓現場監督となったジャレット・デヴァナンという中年の男だった。
熾烈な競争に勝ったと言う割には素朴そうな感じの男だったが。
驚いたことに、ジャレットは妻まで連れてきていた。
「いやあ、パストン島は補給島と言っても入植して普通に街を作れる程の規模と資源がある島でしょう?
だから独り者の男だけで作る街では無く、普通に子供を作る家族持ちが構成する街にした方が継続性があって早く経済的にも自立できるだろうと主張したんですよ。
そして家族持ちが暮す街にするならば、女性の視点は絶対に欠かせないでしょ?
幸い、うちの子供達は独立して手を離れていますからね。妻も私がずっとやってきた仕事を間近で見るのも面白いだろうと一緒に来ることを合意してくれまして」
奥さんを俺達に紹介しながらジャレットが頭を掻きながら説明した。
ちなみに、奥さんの名前はキャリーナ。ひょろりと痩せたジャレットに比べると、対照的なふっくら系の宿屋や食事処の女将さんに見かける体型だ。
夫婦だから同じ物を食べるだろうに、何でこうも体型が違うんだろう?
・・・というか、中年の女性はふっくら系が多いか。
パディン夫人だってあれだけ働いているのにふっくらしているし、年を取ると自然にそうなるのかな?
恐ろしくて本人には聞けてないが。
新しく見つかった島で長期的に不自由な暮らしをしながらの開拓への同行を妻が合意してくれたというのが、ある意味デヴァナンにとっての大きな売りだったのかもしれない。
シェイラの様子を見る限り、ちゃんと宿や食事処が無いような新規の開拓場所へ来たがる女性は少ないようだし。
変に若くて美人でないのもこの場合はプラスだろうしな。
「僕たちの手で街を作るって考えるだけで楽しみですね~」
シャルロがニコニコしながらデヴァナンと握手した。
「そうですな!
今話題の、真水を抽出する魔道具というのもありますから色々と融通が利きそうですし」
デヴァナンが俺とアレクの方にも握手の手を差し出しながら答えた。
「手引き書が古いのでしたら最近になって開発された魔道具で使える物もあるかもしれませんしね。
もしくは、今は廃れているけど以前は普通に使われていた魔道具もあったかも知れないし。
簡単な魔道具なら我々で作ることも出来ますし、いざとなれば東の大陸にある領事館から転移門で王都まで戻り、魔術院で魔道具の設計の詳細を調べに行くのも可能です。
我々も協力を惜しまないのでどんどん声を掛けて下さい」
アレクがデヴァナンの手を取りながら付け加える。
相変わらず、丁寧な物言いだぜ。
「宜しく。
ちなみに、手引き書には載っていないだろうしこれからも載せる意味が無いと思うが、今回の開拓では水関係の事ならシャルロか俺に頼めば水精霊に手伝って貰えるからかなりのことが簡単にできるぞ。
あと、俺の使い魔の土竜もあちらに着いたら召喚する予定だから、土を掘ったり均したりといった土関係の事もかなり手伝えると思う。だから何をしたいのかどんどん言ってくれ」
イマイチ開拓の流れって言うのは分からないが、デヴァナンが現場で指示をする人間らしいから、こいつの回りに張り付いて何をしようとしているのか、何が出来るのかを見ていくのが良いだろう。
「3人もの魔術師に手伝って貰えるなんて、本当に贅沢な現場ですな。
それにしても、土竜の使い魔ですか?
開拓では街や畑の土均しが非常に労力が掛る作業なのですが、それを簡略化出来るのならば大歓迎です。
というか、街では無くても、新規の畑や道路の整備でも使い魔に地面の整備を手伝って貰えるのでしたら魔術師を雇うのも手ですなぁ」
目を輝かせながらデヴァナンが俺の手を握ってブンブンと振り回した。
あ~。
何か、俺ってこれから想定以上にこき使われそう?
でもまあ、直接作業をするのはアスカだけど。
報酬をどうするかとか、どの位働いて貰うのかとか、あまり詳しくアスカと話し合っていないんだが・・・アスカが飽きてきたらどうしよう?
社会的立場的には魔術師はかなり高いので、現場で監督する(つまり今回はトップ)のジャレット氏とほぼ同等です。
しかも3人は補給島の開拓権の一部を持ってるし。
ただ、アレクは誰にでも丁寧に話すのがデフォルト。
丁寧で優しげだけど実は怒らせたら一番怖いタイプw




