420 星暦554年 紫の月 20日 次の旅立ち?(11)
ちょっと時間を飛ばしました。
既に満足がいくレベルまで魔道具の改善できて、販売ステージまでたどり着きました。
>>>サイド セビウス・シェフィート
「触媒と魔石が必要だが、海水から真水を抽出出来る魔道具だ。
幾ら出す、フェルダン?」
アレクに昨晩渡された魔道具を机の上に出し、バケツからコップ一杯分の海水を注ぎ込みながら友に尋ねる。
弟と友人達が、先日発見に関わっていた補給島の開拓を手伝いたいと考えた結果、真水を抽出する魔道具が良いだろうという結論になって開発したとのことだ。
自分の弟ながら、こんな画期的な物が作れるなんて・・・魔術師とは想像を超える存在だ。
これを渡された時、ある意味今までで一番感心した。
空滑機を作った時も空を飛ぶなんて・・・と思ったし、沈没船を見つけてきた時も凄いと感心したが・・・海水から真水を創り出すことは船乗り・・・そして船を持つ商会にとっては何にも代えがたいほどの価値がある。
それをあっさりと『開発したから、販売相手の開拓をよろしく』と気軽に渡されたのだ。
是非とも自分の驚きを友にも味わって欲しかった。
一応、そう言う物に対する需要は有るのかと言う話は相談を受けていたが、まさか相談されてから1月ちょっとでこんな物が出来上がるとは想像もしていなかった。
我が弟ながら、あいつらって天才なのかも?と密かに思ったほどだ。
魔道具を起動し、触媒の黒い粉を投げ込み、待っている間にお茶の準備をする。
一応商談なのだから、流石に酒は不味いだろう。
その間に、黒い粉が淡く光りながら魔道具の底の方に沈んでいった。
お湯が沸いたので、ポットに入れる。
そして魔道具の上部を傾けて渡されたフィルターを付けた容器に透明の水を流し込み、フェルダンに渡した。
「調べて見ろ。
飲めるぞ?」
流石にお茶をこれで淹れはしなかったが。
フェルダンは渡された水では無く、まずは先程流し込んだ海水を入れていたバケツに指を突っ込み、味を確認した。
「海水だな」
「当然だ。
泥水でも良いらしいが、お前さんにとっては海水の方が意味があるだろう?」
態々港へ人をやって汲んできたのだ。
塩辛い海水で無ければ、それこそ怒る。
机の上に出しておいた別の魔道具を手に取り、フェルダンが渡された水をそれで確認した。
この魔道具は主に毒や厄介な薬が入っていないかを確認する為に貴族や大商人が使う事が多い物だが、水に塩やその他不純物が混ざっていないかも確認出来る。
一応、海水の塩も『毒』の一部として認識するのだ。
当然フェルダンだって同じような物を持っているが、流石に友人の家に呼ばれた際に持ってくるとは思っていなかったので準備しておいた。
「コップ一杯ならあっと言う間だが、流石に量が増えれば時間は掛る。
それでもバケツ一杯で1刻程度と言うところだな。
フィルターはそれなりの頻度で変えなければ目詰まりして使えなくなるし、触媒は毎回新しい物が必要だ。
それでも・・・凄いだろう?」
抽出した水を検査し、用心深く口に含んで味を確かめている友に声を掛けた。
「幾らだ?」
カップに入っていた残りの水を飲み干して、フェルダンが聞いてきた。
「幾ら出す?」
なんと言っても、これの価値は海に出る商家にこそ、ある。
「・・・金貨5枚というところかな。
フィルターと触媒の値段にもよるが。
一体どうやったら君の弟君達はこんな魔道具を開発できたんだ?
切れ者だとは思っていたが、こんな物を作れるほどの天才だとは思ってなかったよ」
魔道具を持ち上げて重さを確認しながらフェルダンが聞いてきた。
「何でも、基になる魔術回路は既に存在していたらしいな。
今までにも貴族や商会が支援して色々な水の抽出装置を開発させてきていたらしい。
それに手を加えたと言っていた」
水精霊の加護持ちの友人が近くに2人もいるせいか、どうもアレクはこの真水の抽出装置に関してのありがたみを軽く見ているようだったが。
まず、一般の人間は魔術院の魔術回路の記録を見ることすら許されないのだ。
そこから魔道具を作るのだって魔術師にしか出来ないことだ。
「金貨10枚だな。
触媒は竹炭の粉だ。安い物だろう?
フィルターは触媒の粉を取り除けるだけ目が細かければ、何でも構わない」
触媒が特殊なものであるならば、魔道具を安くして触媒で稼ぐという手もあったのだが・・・これは普通の竹炭の粉なので、その手段は取れない。
まあ、商会の方で更に効率の良い触媒がないか、研究はさせるつもりだが。
フェルダンが肩を竦めた。
「触媒がそれならば、妥当な値段か。
幾つ作れるんだ?」
お茶を注いだカップをフェルダンに勧めながら思わず笑いが漏れた。
「分からん。
オレファーニの3男の婚約式の手伝いを頼まれたとかで、慌ただしく出て行く前に渡されたのだがまだ製作の詳細資料が纏まってないんだそうだ」
うっかりギリギリまで開発に3人で熱中していたため、転移門を使っても時間がヤバいことになってしまったらしい。
計画的なアレクにしては珍しく慌てていた
どうも、シャルロ君が手伝いのことを言うのを忘れていたようだったが。
無事に式は終わったのかな?
シャルロ達はがっつり魔道具の効率化に成功!
だけどそれに熱中しすぎて、婚約式のちょっとした手伝いを頼むはずだったのをシャルロが伝え忘れていたのを前日に気が付いたというオチです。