416 星暦554年 赤の月 23日 次の旅立ち?(7)
「大きく分けて、混ざっている不純物を抜くのと、水を創るのと二種類あるっぽいね」
シャルロが俺達が魔術院から写してきた魔術回路の資料を取りまとめながらコメントした。
意外にも、真水を作る為の魔具とその魔術回路は思っていた以上に多数あった。
昔から水への需要というのは大きいから、国や貴族が資金を出して色々と開発させてきたらしい。
が。
どれもこれも、添付されていた魔具に関する覚書きを見る限り・・・必要魔力が馬鹿でかいようだ。
これだったら短期的には他に選択肢が無ければ使うにしても、長期的には井戸を掘るなり用水路を作るなりして水を得る方が経済的になるのだろう。
そんな様々な経済的には『失敗作』な魔術回路を集めまくった俺達は、それを工房で見直していた。
「海水を真水と塩に分けられたら、人間に必要不可欠な2つの要素を両方入手できるから便利ではありそうだな」
アレクが呟いた。
「確かに。開拓地だって塩が必要だろうから、自分で海水を煮詰めて塩を抽出するよりは魔具で両方得られたら便利だろうな。
だが、泥とかも混じるだろうから泥混じりの塩って言うのはちょっと微妙な気がするが・・・」
まあ、泥は暫く汲んだ海水を置いておいたら下に沈殿するか?
上の綺麗な海水だけを使う形にすれば真水と塩になるかも知れない。
下町の井戸水が汚くて困った場合の濾過装置としてだったら分別された不純物はそのまま捨てれば良いし。
「こんなの、蒼流とまで言わなくても、そこら辺で遊んでいる精霊に頼めば一発で直ぐに分けられるんだけどねぇ」
ため息をつきながらシャルロが頭をかいた。
本当に。
俺が頼んだって、気楽にやってくれるだろう。
だが、精霊への頼み事をする魔術回路というのは未だに発見されていないし、精霊へ何かを強制しうるような魔術回路だったらそんな物は開発しない方が良いだろう。
「取り敢えず。
海水なり泥水なりを汲んだ後、半刻程度それを静置しておいて大きな不純物を沈殿させ、上半分に魔具を使うとしよう。
そんでもって魔術回路ごとにどの程度の魔力を使ってどの程度の量の真水を作れるか、チェックしていこうぜ」
俺の提案に、ため息をつきながらアレクとシャルロが合意する。
ため息をつきたくもなる。
10種類以上も水抽出用の魔術回路が見つかったのだ。
これを全部作るのにどれ程時間が掛るか。
だが、作ってみないとどれが効率がいいか、どのように魔術回路が機能するかは分からない。
下手したら、シャルロの婚約式までに既存の魔具の試作で終わっちまうかもな・・・?
◆◆◆◆
取り敢えず、魔術回路が簡単そうなのから試作してみた。
最初の一つが完成したので、適当に蒼流に海水を出して貰って試運転してみた俺達は、思わず唖然としてしまった。
「何だこれは」
魔具から猛烈な勢いで吹き出る蒸気にアレクの声が漏れた。
「これって加湿器として使った方が良くない?」
シャルロも思わずと言った感じで呟いている。
「こんなに大きな加湿器なんて要らないし、この勢いで蒸気を出されたら幾ら乾季でも家中カビだらけになるよ」
俺の突っ込みに二人とも反応しなかった。
大して大きくない魔具から、猛烈な勢いで蒸気が出てきているのだ。
ちょっと呆気にとられて、どう反応して良いのか分からないという感じだ。
「・・・取り敢えず、これが稼働している間にお茶でも淹れて一休みしようか」
ため息をつきながらアレクが提案した。
「そうだな。
だが、窓を開けておくぜ。
これじゃあ工房中が湿気ちまう」
合意して立ち上がり、窓を開けに動く。
シャルロ達も同じ感想を持ったのか、3人で工房中の窓を開け始めた。
次の試作機は外に持って行って稼働した方が良いな。
しっかし。
あれだけ蒸気を逃がしていたら、かなり効率が悪そうだ。
第一、何だって水の抽出に蒸気が必要なんだ?
酒の二次蒸留みたいに水を蒸気にして抽出しているにしても、肝心の蒸気が逃げていたら意味が無いだろうに。
・・・もしかして、俺達の作り方が悪かった?
いや、添付されていた魔具のデザイン通りに作ってある。
要は、元々の魔具の設計に問題があるという訳なのかもな。
としたら、魔術回路だけで無く魔具の設計そのものも考慮する必要があるのか。
この分じゃあ、パストン島の開拓が始まる前に魔具が完成しないんじゃないか・・・?
前途多難ですw