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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後3年目
413/1294

413 星暦554年 赤の月 16日 次の旅立ち?(4)


「さて。

あなた、よそ行きの靴って持っているの?」

店を出て、開放感に深く深呼吸をしていた俺にシェイラが声を掛けてきた。


「よそ行き?

これで良いだろ?」

今は履いている靴を示した。

一応、礼服を作るのだからそれなりにちゃんとした格好じゃないと駄目だろうと思って正式の場に行くときの格好をしている。


この靴だって、魔術学院を卒業した後に何足か纏めて作らせた物の一つだ。

蒸れず、長時間履いていても問題無く、いざとなれば走ることも出来る上に見た目はちゃんとした靴にするために、それなりに金を出した。


シェイラがため息をつきながら首を横に振った。

「あなたねぇ。

いい加減、そこそこ成功して名前の売れつつある事業家としてちゃんとした衣装も揃えなさい!

普通の商談だったらその靴で十分だけど、晩餐会や今度のお呼ばれみたいな時用の礼装用の靴も必要よ」


え~。

流石に礼装用の靴ってそれを履いて走るのは無理なんだけど・・・。

「商談に履いて大丈夫な靴だったら、何とかならない?」


どうせそういう気張った催しはアレクかシャルロがメインになって出席するから、俺は壁際で気配を消しておけばどんな格好をしていたかなんて誰も気が付かない。


「駄目よ。

そういう華やかな場所が苦手なんだったら、少なくとも格好に関して気後れしなくて良いように外側だけでも揃えとくのが重要なの。

本当はきちんと時間を掛けて作らせるのが一番なんだけど、幸い貴方は基準タイプの足の形だからね。

幾つか店を回れば見本としておいてある靴で合うのがあるはずよ」

シェイラに睨まれたので、『面倒臭い』『金が勿体ない』『シャルロ達に任せれば良いじゃん』という台詞は飲み込むことにした。


そうか。

成人してそれなりに成功したら、礼装も必要経費なのか・・・。


◆◆◆◆


「希望的観測なんぞせずに、前もって靴を作らせておけば良かった・・・」

店員が奥から更に靴を運び出してくるのを待ちながら、深くため息をついて椅子の背もたれに体重をかけて寄りかかる。


「ちょっと、ウィル、ここでそんなだらしない姿勢は駄目よ!」

ピシッと俺の太股を叩きながらシェイラが注意をしてくる。


「だってこれで7軒目だぜ・・・。

今度ちゃんと靴を作っておくから、今回だけは今ある靴で許して貰おうよ。

きっとシャルロなら文句言わないよ」

ため息をつきながら姿勢を正し、シェイラに訴える。


次から次へと靴屋を回り、礼装用の靴で俺の足に合いそうなのを出して貰って片っ端から履きまくったのだが・・・。


サイズが合わないか、色が注文した服と合わないか、デザインがあまりにも華美すぎて受け付けないか。

靴なんてそれ程の違いがないだろうと思っていた俺としては意外なほどに『合わない』靴と沢山出会ってしまった気がする。


「まあ、これを教訓にこれからはちゃんと自分の社会的地位の変化を正確に見極めて、必要な道具を前もって揃えておく事ね。

ウィルはちょっと買い物に関しては面倒くさがり過ぎよ」

シェイラが肩を竦めて答えた。


なんか・・・唇が少し震えてる?

「おい。

笑ってるだろ」


くくく!

シェイラの押し殺した笑いがこぼれた。

「だってウィルのその顔!

あれほど頼りになってどんな荒くれ者でも全然平気な魔術師様が、さっきの靴が足に合った時なんて・・・情けないとしか言いようのない、請い願うような顔で私のことを見るんだもの。

いくらあのデザインが嫌だからって、あの顔は無いわぁ」

クスクスと笑いながらシェイラが答える。


「いや・・・シェイラが『色は合っているわね』って言うから。

色があってサイズがあっても、あのデザインはないだろう?!」

先程の靴を履いている自分の姿を思い浮かべて、背中に冷たい物がながれる。


あれは、ない。


「だから更に頑張って店を廻っているんじゃない。

まだ半日よ。

買い物なんて丸1日どころか1週間ぐらいかけてもおかしくないんだから、弱音を吐かずに頑張りなさい」

シェイラの答えは無情だった。


買い物って禁呪の呪いでも掛っているのかとでも感じるぐらい疲れるのだが、シェイラは生き生きと楽しんでいる。

きっと俺の苦しみも全く分かってくれてない。



結局、シェイラが満足して俺が許容できる靴が見つかったのは、それから3刻ほど後のことだった。

女って強い・・・。

やっと買い物が終わりです。

次はちょっと息抜きに(ウィル的には)魔道具の開発かな?

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