411 星暦554年 赤の月 15日 次の旅立ち?(2)
「・・・婚約式に??
マジ????」
自分用のお代わりを注いでいた手が止り、思わず本音が溢れた。
いや、シャルロが婚約するのも、結婚するのも、良いと思うよ?
結婚後には近所の屋敷を買うらしいから、それ程俺達の生活や仕事に差し支えるわけでもない。
シャルロは良い奴だ。きっとケレナを大切にするだろう。
俺も二人の新しい門出を祝福はする。
・・・『良き夫で、良き父』なシャルロっていうのをイマイチ想像出来ないけど。
だけど。
婚約式に出席??
しかも、侯爵家の本家でやるのに????
ケレナはそれなりに気安くって話しやすい女性だが、実は伯爵家の娘だ。
彼女本人は良くてもその家族はどうなのか知らない。
まあ、シャルロと仲が良いみたいだから極端にお堅い人種ではないだろうけど。
シャルロの家族だって、侯爵家の人間だぜ???!!!
「こう・・・式の前か後に、ここでおめでとうと祝福を述べるだけじゃあ駄目か?」
気持ちが大切なんだろう、こう言うのって?
別に、出席という行動はしなくても・・・良いと思わないか?
アレクがニヤニヤと笑った。
「いやいやいや。
親友の一人が婚約するんだぞ?
それなりに格式が高くて典型的な貴族の式典になる結婚式はまだしも、もう少し緩い婚約式ぐらいは出ないと。
礼服を揃える店を紹介するよ。
まあ、シェイラも良い店も知っているかも知れないから、両方見に行って気に入った方を使ったら良い」
うげ。
シェイラも呼ばれてるんだよな。
もしかして、シェイラのドレスも作らなくちゃならないのか??
これって俺の都合で服が必要になるから、俺がシェイラの分も払うんだよな?
いや、金を払うのは良いんだ。
だけど金だけだしてそれで終わりという訳にはいかない気がするのは、気のせいだろうか・・・。
いや、大丈夫か??
そうだよな、買い物に興味が無い男が同行しない方がシェイラだって良い服を選べるよな??
「何だったらシェイラのドレスを作らせる費用は僕が払うからさ。
別にそんなに大げさに考えないで気楽に来て、美味しい料理と酒を楽しんでよ。
僕やケレナの家族とだって、貴族だっていうことを考えなければ絶対にウィルと気が合うと思うし」
シャルロが真面目に言いつのる。
「いや、シェイラの服は俺が出すけど・・・。
流石に貴族だって事を忘れるわけにはいかないだろう。
侯爵家と伯爵家だぜ???」
シャルロが肩を竦めた。
「僕だって侯爵家の息子だよ?
ウィルったら全然そんなこと気にしてないじゃん」
いや、だって。
シャルロだし。
・・・なんかこう、仕事関係で話をするっていうんだったら別に貴族が相手でもそこまで怖じ気付く訳じゃあ無いんだよね。
なんかこう、個人的な友人の家族という『仕事』ではない括りでの関係というのが・・・どう対応して良いのか、分からなくなる。
まあ良いや。
流石にここまで長く友として付き合ってきて、仕事まで一緒にしているのに今更婚約式をすっぽかす訳にはいかないだろう。
問題は・・・服だな。
「これって仕立屋に寸法だけ教えて、貴族の婚約式に出席しても変に目立たない程度に適当に作ってくれって頼んでおく訳にはいかないかな・・・?」
アレクがとうとうクスクスと声に出して笑い出した。
「別に、それも有りだが・・・思いがけず派手な色や模様になった服を着る羽目になりたくなかったら、それなりに色や生地やデザインを見て選ばないと後で後悔することになるぞ?」
げげ~。
「ちなみに・・・シェイラもやはり服を仕立てる必要あるかなぁ?
一応大きな商家の娘なんだから、こういう時に着れる服も持ってそうじゃないか?」
シャルロが俺を憐れんだ目で見つめて首を横に振った。
「シェイラってもう家を出て数年経っているんでしょ?
歴史学会の給料で昼用とは言ってもドレスを仕立ててるとは思えないし、学生時代のは流石に流行遅れになっていて着るの嫌がると思うよ?」
・・・そうか。
一緒に服を仕立てなければならないというのは確定か・・・。
どんな魔道具を開発したら開拓に役に立つかを話し合おうと思っていたんですが、婚約式の服で話が終わっちゃいました・・・。
次回ですね!