398 星暦554年 藤の月 20日 旅立ち?(39)
「次はお茶と香辛料だ!!!
喫茶店に行こう!
バルダン、どっか良いところへ連れて行って!」
購入した冷却・除湿の魔道具を船へ届けて貰うよう手配したら、シャルロが張り切って声をあげた。
出発までに、一体何軒喫茶店を開拓するつもりなのだろうか。
昨日行ったところで良いんじゃないかという気もするが・・・まあ、折角別の大陸まで来たんだもんな。
出来るだけ色々と試してみるべきか。
・・・甘い物に関しては底なしなシャルロの胃と違って、俺は食べられるお菓子の量が限られているが。
「今回は、お茶が美味しいと評判の所を頼む。
勿論、美味しい甘い物も必要だが」
シャルロを見ながらアレクがバルダンに注文を付ける。
「分かった。こっちの店が良いらしいぜ」
バルダンも美味しいお菓子が出る喫茶店へ連れて行けと要求されることは分かっていたので(昨日のうちに更に後数軒はリサーチしておけと言っておいた)、迷う様子はなく動き始めた。
考えてみたら、転移門の細かい調整や東大陸の魔術院との交渉とかはまだまだ時間が掛りそうだが・・・これはハルツァがすれば良いことだ。
ある意味、ハルツァが断固として帰りは船では無く転移門を使うと主張してくれたお陰で、早く帰れるかも知れない。
出発はいつになるのかな?
領事館に戻ったら副長かナヴァールにでも確認してみよう。
店によって喫茶店で勧められる茶の種類も違ってくるだろうから、まだあと数日は喫茶店を回って茶葉や香辛料を入手して回りたいが、何日掛けられるのかを確認しておかないと荷物が増えすぎる可能性があるな。
そんなことを考えながら外に出たら、何やらバルダンが男と揉めていた。
「何をしやがる、これは俺が自分一人で稼いだ金だ!!」
懐から金を奪い取ろうとしている男にバルダンが抵抗しているようだ。
・・・よく見たら、初日の当たり役の男じゃないか。
ガキにリスクの高いスリの作業をさせて分け前を取るような男に碌な奴はいないが、更に自分が関係していない案内での収入まで奪い取ろうとは、最低だな。
俺を標的に選ぶ時点で見る目の無さが明らかだし。
「おい。
お前、こいつがスリを働こうとした際に当たってきた奴だな。
丁度良い、警備兵に突き出してやる」
シャルロが変にバルダンをかばうような事を口に出す前に、男に脅しをかける。
こういう輩は俺たちがバルダンに利用価値を認めていると見たら、際限なく付きまといかねないからな。
「知らないな。
単に甥っ子が家でして帰ってこないから心配していただけだよ。
だが、今まで面倒を見てやった恩も忘れて出ていくと言うのならもう知らないぞ。
お前の部屋が残っていると思うなよ!!」
何やら捨て台詞を吐いて、男が見事な逃げ足で姿を消した。
「・・・お前、部屋なんてあったのかよ?」
思わずバルダンに尋ねる。
使い捨てに近い扱いのスリに部屋をあてがうなんて、この街ってそこまで場所に余裕があるのかもしれない。
・・・それとも孤児には俺が思っていた以上の利用価値があるのか??
孤児が金になる何て言うのはそれこそ禁呪の生け贄ぐらいしか思い浮かばないが。
この街で生け贄を使うような禁呪が一般的に横行しているのだったら、ナヴァールにでも領事館の防御に関して相談しておいた方が良いかもしれない。
「ある訳ねえだろ」
ふてくされたように引っ張られて曲がってしまった服を直しながらバルダンが答える。
・・・だよな。
あの男にも、禁呪の残滓がこびりついている様子はなかったし。
「だよなぁ。
ちなみに、あいつは本当にお前の保護者的な存在なのか?法的に?」
もしも法的に保護者だとしたら、合法的にあいつはバルダンの得た金を全て奪い取れる可能性がある。
「まさか。
俺に親なんて居ないんだ。あいつに血が繋がっている訳も無い」
いやいや。
生まれたんだから親はどっかにいたんだろう。
だけどまあ、本当に叔父ではないのならば問題は無い。
だが。
こいつを領事館の方で長期的に使うのだったら裏の方の顔役にでも話を通しておいた方が良いか?
だが、たかが孤児一人を雇うだけだ。
はっきり言って、裏の顔役はバルダンが存在することすら知らないだろう。
かといって、さっきの野郎に話を通すのは時間と金の無駄になりそうだし。
どうすっかなぁ。
バルダンはまだ小者過ぎて、裏の社会に話を通そうとしてもちゃんと話が出来るぐらい上の立場の人には存在すら認識されてなかったりw