380 星暦554年 藤の月 09日 旅立ち?(21)
「直径50メタ程度で少量の灌木、崖に大量の海鳥が巣を作っている、か」
航海士に発見した島の場所を割り出してもらいながら、島の様子を副長に説明したら、小さくため息をつかれた。
「海鳥の卵スープは中々美味しいのだが・・・取りに行く暇はないな。
下手に誰かが怪我をしたら人手が足りなくなるし。
水が無いとなったら他の船が寄る理由にもならないだろう。
まあ、ここら辺で船が難破した際に生存者が流れ着く可能性があるから、海図には足しておく価値があるが」
やはりあまり役に立たないらしい。
考えてみたら、次に探索に行く際には位置追跡装置に同期させた捨てても構わない魔石だけでなく、記録用魔道具も持って行くと良いかもだな。
口で説明するより、映像を見せる方が誤解が無いし簡単な気がする。
「それはともかく、ありがとう。
探索を始めた初日で島を見つけてくれるなんて、幸先が良い。
これからも頑張ってくれ」
そんなねぎらいの言葉を貰って俺たちは一旦船室に戻った。
「ちなみにさ。
清早が真水が湧く泉を創ることも可能だって言うんだ。
牛や山羊でも放牧させてそれを面倒を見て捌いて船に売りつける人間が住めるぐらいのサイズの島じゃないと真水が取れても無駄だし、そのサイズだったら泉がある可能性が高いと思うんだけど、この事ってあまり公にしない方が良いよな?」
清早が言ったことに関して、二人に相談する。
「大海の中にある小さな島で真水を湧かせるって・・・どうやって??」
アレクが思わずという風に聞き返してきた。
「真水を循環させる泉を作って、適当にそこら辺に居る水精霊を泉に留まるよう頼めば良いらしい。
まあ、その水精霊が面白がってそこに留まり続けるように、一生懸命作った物を定期的に捧げないとそのうち枯れるだろうって言っていたけど」
「あ~。
水精霊に捧げ物をしなければならないって時点で、清早なり蒼流なりに協力を求めたことがばれそうだねぇ。
まあ、僕たちの便利さが更に増えたところでそれ程問題にはならない可能性の方が高いけど、確かにあまり公にはしたくないね」
珍しくシャルロが真剣な顔で答えた。
流石に小さい頃から上級精霊に加護を与えられていただけあって、その便利さに群がってくる人間に対しては警戒するよう教え込まれているようだ。
「確かにある程度のサイズと生態系が無ければ中継地としても利用しにくいだろう。
生態系があると言うことは真水も何らかの形であるはずだから、せいぜい地下水を見つけて井戸を掘る程度で済むんじゃないか?
それだったらそこまで問題にならないと思う」
アレクが提案してきた。
確かにね。
「ちなみに、グルグルと当てもなく空滑機で飛び回らなくても、それなりの数の生き物が住んでいる島を探してくれって言うと、清早が場所を教えてくれたぜ。
だからこれからは探しに行く時も適当に場所を探しているように見せかけるように時間を潰す必要はあるが、後は位置追跡装置に同期させた魔石と映像記録用の魔道具を持って行けば良いと思う」
今後の探索についてついでに気が付いたことを伝える。
「なるほど。
そうなると、私がかなり役立たずになるなぁ」
アレクが頷きながらぼやいた。
「そんなこと無いよ。
今日も魚取りに手伝って貰ったし」
シャルロが慰めたので思い出した。
「そうだ、魚はどうだった?周りに遠慮せずに俺たちの食生活が改善出来る程度は捕れたか?」
流石に、俺たちの分だけ捕れたから俺たちだけ新鮮な魚を食べるという訳にはいかない。
少なくとも士官には行き渡るぐらい、出来れば平の船員も少しは食べられるぐらいは必要だ。
それなりの規模の船なので、そうなるとかなりの数が必要になる。
「うん、何とかね。
料理長に相談してどの位必要か聞いたんだけど、思っていたよりも多かったから引揚げるのが大変だった」
暢気に頷きながらシャルロが答えた。
「どうも料理長に一本捕られた気がするけどな。あれって絶対私達が考えていた必要最低限の数より多めに捕るよう誘導されたと思う」
アレクが何やら複雑そうな顔をして付け足した。
まあねぇ。
後から船員に礼を言われて知ったのだが、俺が出した3樽分の水も塩抜き以外の用途に大分流用されたようだしな。
どうも俺たち、かなり都合良く使われている気がする。
まあ、今晩の食事が美味しければ構わないが。
1メタ=約1メートルです。
そろそろちょっと良いように利用されちゃっている現実に気付いてきた3人組w