038 星暦550年 紺の月 15日 中休み
学院で学ぶ術は基礎的なものだ。
それを元に想像力を働かせ、自分風に魔力を具現していくことが一流の魔術師になる道だと言う。
だが、想像力を働かせてみてもうまくいかない時の方が多いんだよねぇ・・・。
魔術学院では年末の桃の月の終わりと、紺の月と緑の月に5日ずつ連続休暇がある。
去年はバイトと図書館の読破に明け暮れていた俺だが、今年はシャルロとアレクと一緒にシャルロの祖母の家とやらに遊びに行くことになっていた。
「あっちにはねぇ、遺跡もあるんだ。
大したものは無いらしいけど、ついでに探検してみよう」
シャルロがうきうきと提案した。
楽しげだな。
「今までにも行ったことあるんじゃないのか?」
「大したものは無いらしいけど、やっぱり危ないからね。
子供は禁止されてたの。でも、もう一応成人したし、魔術も基本の術はもう学んだし。
だから今年こそは行こうと思って。
アレクとウィルも一緒だったらきっと大丈夫だし」
ま、考えてみたらこいつにはあの過保護な守護精霊がいるんだ、無敵だろう。
そう思うと、何で子供だからと言って入るのが禁じられたのか不思議だ。
「探検ねぇ」アレクが考え深そうにつぶやいた。
「あそこら辺の遺跡と言ったら・・・古のオーパスタ神殿関連かな?行く前にちょっと図書館でさらっておこうか」
「何か面白そうな伝説とか言い伝えがあるか、調べておこう。
やっぱり単に洞窟モドキな遺跡を歩きまわるより、何か宝を求めてさまよう方が絶対に楽しいから!」
アレクが立ち上がった。
「そうとなったら、図書館でそれらしい本を手分けして探そう」
やる気満々だね、アレク。
俺としては虫やら小動物やらが沢山隠れていそうな遺跡ってあまり行きたくないんだが・・・。
まあ、遺跡になんて行ったことがないから、面白いものを見かけるかもしれないが。
図書館は大まかに歴史、魔術理論、魔術実務、軍務、その他といった感じに分かれている。
今までに魔術理論、魔術実務と軍務は大分と目を通してきたが、歴史やその他は手つかずだ。
今回はアレクの提案で『その他』を探すことになった。
遺跡といったら古い建造物ということなのだから歴史かと思ったんだが、遺跡というのは歴史も失われているのが普通で、歴史が分かっているものは正式には遺跡と呼ばれないことが多い。
ということで、『その他』が一番可能性が高いんだそうだ。
ちなみにオーパスタ神殿というのは単にオーパスタ地方に多くみられる形式の遺跡で、中央に神殿の祈祷台のようなものがあるから神殿と呼ばれているだけで本当に神殿だったのかすら分からないらしい。
シャルロとアレクが思い思いにこれはと思った本に目を通している間に、俺は新しく開発しようと思っている技能を使おうと集中することにした。
基本的に、俺の心眼は何でも視ることが出来る。
建物なり部屋なりを輪切り状態にして全体的に透視することだって可能だ。
だとしたら、別に魔力の発光が無くっても物は探せるはず。
物や人で試してみたところ、人間を探すのは比較的簡単だが物はそれなりに集中力を要するし誤認することもある。
同じ要領で、本も探せるのではないか。
単語を形成する文字をイメージして探せば一々本を読まなくてもそれだけを透視出来てもおかしくない。
これがうまく出来れば図書館での欲しい情報探しが非常に効率的になる。
ということで、棚一つを平面としてとらえ、その中の文字をさらっとなぞるように透視する。
・・・。
文字が多すぎだ・・・。
魔術書ならまだ術などには魔力が微かに付いているので視えるが、普通の紙に普通の人間が何も考えずに書いた文字はダメだった。
そりゃあ、集中すりゃあ読めるのだが、なぞるように流し読みという透かし視して欲しい文字列があるかを確認するにはちょっと厳しい。
ちっ。
思ったように行かないもんだ。
しょうがないから、今度魔術書を何か調べたい時に使ってみるか。
あ~あ、何かがっかりしたらやる気が失せた。
いいや、シャルロの遺跡のことを調べる振りして、他のことを調べよっと。
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