370 星暦553年 桃の月 21日 旅立ち?(11)
「シェイラとはどこで知り合ったんです?」
応接間に案内された。
メイドが全員のお茶を準備している間に、シェイラの兄のジャムールがにこやかに聞いてくる。
・・・聞いてないのかよ??
一応オスレイダ商会の方で俺の情報確認はしたってシェイラは言っていたよな?
親父さんだけが関与していたのか、それとも単なる社交辞令としての言葉なのか。
はぁぁ。
仕事に関係もないのに、言葉の裏を勘ぐらなきゃいけない会話なんて面倒くさい・・・。
「おや、シェイラから聞いていませんでしたか?
ヴァルージャの遺跡発掘現場で依頼を請けたんですよ。俺と、仲間二人の若手が」
流石に俺たちが魔術師だって話は聞いているよな?
俺は(というか俺たち3人とも)魔術師っぽいローブやずるずるした服は着ていないから、ぱっと見には魔術師には見えない。
まあ、俺が魔術師であると言うことすら聞いてないならそれはそれで構わない。
元々、魔術師としてシェイラの実家を助けるつもりはない。
「ウィル達も遺跡に興味があるみたいでね。以前、歴史学会の知人にウィル達が遺跡に興味を持っていると聞いたから、駄目元でちょっと割安なお値段で依頼を出してみたのよ」
笑いながらシェイラが付け加える。
『魔術師としては割安な』とは言わなかったな。
シェイラと兄貴の関係って一体どんな感じなんだろ?
今まで話題に殆ど出てこなかったからなぁ。
今日シェイラの実家に行くことになったって話の時も、親父さんに会うとは聞いていたけど兄貴は話題に上がっていなかった。
それだけシェイラにとってはどうでもいい奴なのか?
兄弟間の関係ってよく分からないからなぁ。
あまり憶えていないが、両親が生きていた頃にも俺に兄弟がいた記憶は無い。
アレクやシャルロの所はそれなりに兄弟で仲良くやっているみたいだが。
・・・アレクはともかく、シャルロは情報の共有というところではあまりやってないかもだが。
「ほおう、遺跡が好きなのか。
では、シェイラとも気が合いそうだな。
なんと言っても、一時期はこの商会の筆頭跡取り候補だったというのに、私に秘密で王立大学院で歴史学を修めて飛び出していってしまった娘だからな。
ちょっと突拍子も無い程行動力のある娘だが、よろしく頼むよ」
親父さんが笑いながら言ってきた。
おやま。
シェイラが跡取り候補の筆頭だったのか。
そう言えば、アレクの家族も、事業での才覚を示すことで商会内のポジションが決まるとか言っていたよな。
・・・となると、この兄貴は息子ではあっても必ずしも跡取りとして有望な訳では無いのか?
シェイラって他に兄弟なり姉妹なり、居るのか?
跡取りがいないから最後に泣きつかれて商会のトップにならざるを得なくなるなんて、シェイラも嫌だと思うぞ。
・・・とは言っても、微妙に能力が足りない兄貴を跡取りとして周囲に認めさせるために助けていたんでは、結局シェイラに負担が掛る上に得るものもなくって本末転倒だが。
「ちょっと変わり者のウィルと、かなり変わり者の私で、とても合っているのよ」
シェイラがにっこり笑いながら返した。
「え。
俺って変わり者??」
思わずシェイラに尋ねる。
シェイラが肩を竦めた。
「まあ、それなりに個性的よ?」
ちょっと驚いた。
確かに、技能的にはそれなりに平均的とは言えない物があるとは思っていたが、性格的な面で『個性的』と言われるとは思ってなかったぞ。
「別に良いじゃない。
平均的な考え方しかしない人間だったら、私と気が合わなかったでしょうから。
私としては、私と気が合うような変わり者だからウィルが好きなのよ?」
にっこり笑いながらシェイラが付け加えた。
・・・!!!
お前なぁ!
こんなところでそんな恥ずかしいことを急に言うなよ!!
顔が熱くなった気がするが、取り敢えず素知らぬふりをして話を続けることにする。
「そうか?
俺も変わり者のシェイラといて、楽しいよ」
「そう言えば、南のガルカ王国が最近きな臭いとの話ですが、どの位で収まりそうだと思いますか?」
にやにやと俺たちの事を楽しげに見ていた親父さんを無視して、ジャムールが真面目な話を突然持ち出してきた。
「ジャムール。
南周りの航路は私が開発したものだ。
跡取りとして認められたかったら、何か新しい販売ルートなり商品筋を見つけよと言っているだろう?
ガルカ王国の問題が解決するまで航路の使用を停止させて待っているだけでは駄目だぞ」
ため息をつきながら、親父さんがジャムールへ言葉を投げかける。
ふうん。
親父さんとしては、特にガルカ王国関係のことや東大陸への新規航路の話を俺たちから聞き出したい訳では無いのか。
じゃあ、単に娘の恋人に会いたかっただけ?
・・・何かそれはそれで照れるなぁ。
兄貴の方は南周りの航路に未練があるようだが。
お父さんはシェイラの恋人を自分の目で確認したかっただけでした~w