362 星暦553年 桃の月 5日 旅立ち?(3)
結局、アレクは俺たち3人で金貨30枚という報酬を今回の航海について取り付けた。
そんでもって一発で実用的な航路を開拓できたら成功報酬としてもう30枚。
つい先日のファルータの騒ぎで裏ギルドからお礼に50枚を貰ったことを考えると少ない気もしないでもないが、元々1ヶ月近くかけて開発した商品だって金貨30枚で買い取って貰えれば大成功と言うところだ。
船に閉じ込められる不便さを考えるとちょっと不満が無きにしもあらずだが、まあ1ヶ月の殆どをノンビリ空滑機に乗って空を飛んで周りを見てくれば良いだけな気楽な作業のはずなので、あまり高額を要求しなくても良いだろう。
「蒼流~。
こっちの大陸から東側の大陸に行くのに、ここら辺の港を出た際に使ったら海流とか風の流れがとても不利になるルートってある?」
魔術院から家に帰って工房でお茶を準備ながら、シャルロがノンビリと精霊に声を掛けた。
別に声を出さなくてもシャルロと蒼流は話せるのだが、俺たちにも聞かせることで何か助言があったら欲しいと言うところか?
『多少北によって進んだ方が人間の船の航海にとっては楽だろうが、どこから行ったところで不可能という訳では無いな』
蒼流がすっと姿を現して答えた。
流石出来る精霊、シャルロの思惑も読んでちゃんと俺たちにも聞こえるように答えてきた。
「その北寄りのルートって行く途中に水が出る島がちょくちょくある?」
シャルロがマグにお茶を注ぎながら尋ねる。
『ふむ。
それなりの数の島があるのはもう少し南よりのルートだな。北寄りの方に東へ進む海流があるが、途中にある島の数は少ない』
一瞬の沈黙の後に、蒼流が答えた。
知っている情報を思い出したのかな?
それとも今の一瞬で海の情報を調べたのか?
精霊の力って俺たち人間にはイマイチ把握出来てないから、ちょっと興味があるところだ。
変に精霊の力が知れ渡りすぎると精霊の加護がある人間を悪用しようとする人間が出てくる危険があると言うことで、精霊の力に関しては研究もあまり推奨されていないし、研究結果は魔術院の中でも公表されていない。
自分の加護がある精霊(例えば俺なら水の精霊)に関してだけならば、魔術院の中にある資料を読むことが可能だと、以前清早に加護を貰った際に学院長に教わった。
とは言っても、特に清早に頼み事をするつもりは無かったのでそれら資料を読んだことは無いが。
まあ、今回は航海中にシャルロが病気で倒れたりしたら俺が頼られることになるから、一応後で清早に確認しておいた方が良いかも?
・・・でも、シャルロって基本的に丈夫で鼻風邪すらひいたことないんだよな。
蒼流に『自分が乗っている船を安全なところまで届けて』と頼めないほどの重病になるとは考えにくい。
「じゃあ、取り敢えずちょっと南寄りに進むってことで良いね。
僕は出発日までケレナと出来るだけ時間を過ごすから、何か必要なことがあったら朝か夜に言ってくれる?」
蒼流の答えに満足したらしきシャルロがあっさりと俺たちに言ってきた。
おい。
出発までに『出来るだけ多く、遠くまで確認しておいてくれ』って言われてなかったか?
まあ、今どれだけ時間を掛けても報酬は変わらないんだから、それ程真面目にやる必要はないか。
「じゃあ、俺もシェイラの所に行ってくる。
何かあったら通信機で連絡してくれ」
お茶をシャルロから受け取りながら俺も付け足す。
「では、私は実家の方で今回の件に関して相談しておくか」
アレクも特にシャルロの行動を咎めるでも無く、あっさり同意した。
そうだよなぁ。
取り敢えず無事、東の大陸まで行ければ良いんだ。
探す目的の島がある大体のルートさえ最初に間違えなければ、蒼流なり清早に毎朝周辺の情報を確認して空滑機を飛ばせば上手くいくだろう。
願わくは、一発で成功報酬を貰えるところまで行きたいな。
中々ちゃっかりしてて図太いシャルロ君。
次は3日に更新します。