360 星暦553年 桃の月 5日 旅立ち?
「ウィル~、アレク~、ちょっと魔術院から依頼がきたんだけど」
朝食の後にノンビリと工房でお茶を飲んでいたら、何やら通信機で呼び出されていたシャルロが帰ってきて不穏なことを告げた。
「魔術院から依頼って今度は何だい?
こないだの王太子婚約祝いの祭りに動員された分で今年の義務は全て果たしたはずだが?」
アレクが何やら不機嫌そうに答えた。
俺はファルータの街で忙しくて大変だったが、アレク達も王都の守りのために色々とこき使われたようだな。
「なんか、ガルカ王国経由で流通している東大陸の調味料とか薬の材料を自力で入手するために、新しく取引ルートを探すのを手伝って欲しいって」
はぁ?
新しい取引ルートって?
全く何のことか分からなかった俺と違い、アレクにはシャルロが言っていることの意味が分かったらしい。
「ああ、船の新しい航路を探したい訳か。
と言うことは、とうとうガルカ王国との関係を断絶する決断を下したのかな?
そうなると航路開拓の為に水の精霊の加護があるシャルロに協力して欲しいという事か」
・・・航路か。
俺たちがいる大陸の南の先端の方に島が集まっているところがあって、船での交易はそこを通って別の大陸へ航海できるって聞いたことがある。
その為に南の諸島地域へ行く途中にあるガルカ王国の交易船から仕入れたり、アファル王国の船だとしてもガルカ王国で補給を受ける。
これが現在の交易航路なのだが、ガルカ王国があれだけ変な方向に傾いているのに関係を持ち続けていたのってこの交易航路が重要だかららしい。
ガルカ王国との関係が断絶することを想定するなら、南周りでは無い交易用のルートが必要になる。
東側の大陸も、俺たちがいる大陸の南端から島を伝ってたどり着いた後は北にそれなりに延びているので、南経由ではなくても交易が出来るはずとの話らしい。
ただし、どこで補給できるのかも、海流がどう流れているかも分からぬ未知の海へ出て行くのはあまりにもリスクが高すぎるため、シャルロの手伝いが欲しいのだろう。
「じゃあ、暫くシャルロは留守ってことか?」
シャルロの分のお茶を注ぎながら尋ねる。
「いや、向こうで転移門を設置したいから魔術院から専門家が一人来るらしいんだけど、それの手伝い兼その他諸々の要員としてウィルとアレクにも来てって」
ええ~?
何週間か何ヶ月か知らないけど、船の中での生活なんて嫌なんだけど。
「確かに、空滑機を持って行けば周辺の探索も早く済むだろうな。
だが、私も同行するとなったらシェフィート商会が他の商会に先んじることになるが、良いのか?」
アレクが首をかしげながら尋ねた。
「さぁ?
詳しいことは商業省の人と魔術院でこれから話し合うらしいからその時に聞いてみてよ」
シャルロは肩を竦めた。
ふうん。
まだ、魔術院そのものが商業省と話し合う段階なのか?
それにしてはあっという間にシャルロに指名が来ているが。
いや、水の精霊の加護持ちで長期に出られるほど若くて健康なのってシャルロしか居ないか。
・・・これって俺も行く必要、あるんかなぁ?
年末に向けてお祭りでシェイラとデートしようと思っていたのに、下手をしたら年末に国に居ないかも??