359 星暦553年 橙の月 30日 これも後始末?(19)
ウィルの視点に戻ってます
「ガルカ王国の王宮魔術師が亡命してきたそうだ」
今回の騒ぎの収支が確定したので、報酬を払うと呼び出された俺に長が教えてくれた。
既に軍部から学院長経由で最初に合意した金貨5枚を貰っていたが、盗賊ギルドからは成果制で全体の収支がプラスだったら一部貰えるという話になっていた。
・・・と言うか、まずないだろうという想定だったが、軍部と直接付き合う羽目になるよりはマシだ。
裏ギルドへ国や公爵領が支出補てんをしてくれるとは思えなかったし、手当たり次第に設置されていた魔具を売り払うとしてもその後も設置現場を見張る人員まで必要なことを考えると、裏ギルドの収支がプラスになるとは想定していなかった。
だが、タレスの焔が大量に見つかったことで話が変わったらしい。
「王宮魔術師が?
まさか、今回の騒動に王宮魔術師が動員されていたと?」
王宮魔術師といったらエリート中のエリートだぜ?
そんなのが、戦争中ならまだしも表向きには仲良くやっているはずの他国の破壊工作活動なんぞに参加するのか??
「ガルカ王国では王宮魔術師はテリウス神殿の使い走りと化しているらしい。
今回も問答無用で駆り出された上に、失敗の責任を負わされて殺されるのが目に見えたから見張りの元を抜け出して逃げてきたそうだ。
変な結界に足止めされていた男たちがファルータの下町近辺で捕まっただろう?
あの足止め用の魔具を作って使った男らしい」
へぇぇ。
あの魔具は、俺たちが開発してシェフィート商会から売り出した物をほんの少し弄っただけで拘束結界に変えた優れ物だった。
勿論、効果は短時間だ。それでも魔石に魔力をたっぷり充填してあったお蔭か、消火が終わった俺たちが犯人を捜しに来た時にはまだ逃げようと躍起になっているところだった。
あの魔具にああいう使い方があるというのは想定外だったなぁ。
「それこそ、手軽に作れる一時的な足止め結界なんて裏社会の人間にとってはもの凄く価値がありそうですね?」
元王宮魔術師とは言え、潜在的敵国から亡命してきた魔術師では暫くはまともな仕事には就けないだろう。
そうとなれば、表向きだけまともに繕えば、裏ギルドからの依頼でも請ける可能性は高い。
「ちゃんと魔具を買ってからそれを弄って下さいね。買わずに一から拘束用魔具を作るんだったら特許料の支払いをお忘れ無く~」
とは言っても、あまり大々的に悪事から逃れるのに使われたら、そのうち治安部隊から販売制限を掛けられそうで、嫌だが。
まあ、裏ギルドの仕事というのは見つからないでやるというのが大前提だ。
失敗したときに逃げる用の魔具をそうそう大量に必要とするなんてことにはならないか。
長が肩を竦めた
「伝えておこう。
ちなみに、今回の報酬としては金貨50枚をファル-タの連中が送ってきたぞ」
うぇぇぇぇ!?
驚きで、思わず一瞬動きが止った。
いくらタレスの焔が高額で取引される物とは言っても、戦争中とか今回のような破壊工作を行うのでない限りあれが大量に必要とされることなぞ、まずない。
となると、あれを大量に入手したところでそこまで利益になるとは思えなかったのだが。
「まあ、あいつらも今回の騒動に関してはお前さんにかなり感謝しているというところだな。
スラムまで調べるのは無理だろうと最初から諦めていたのに、最後の最後まで手を抜かずに調べてくれたお陰で街全体が火の海に飲まれるところだったのを逃れられたんだからな。
しかも、発火したのに関しても、結界を張ってくれたか何かで広がるのを止めてくれたそうだな?
魔術師がそこまで役に立つとは思わなかったと言われたぞ」
長が重そうな袋を差し出しながら言った。
まあ、普通の魔術師だったらタレスの焔を止めるような結界を幾つも張るのは難しいよな。
清早のお陰だ。
改めて礼を言っておこう。
しっかし、金貨50枚かぁ。
想定外に儲かったな。
もう、年内は仕事しないでヴァルージャへボランティアで詰めようかなぁ・・・。
いや、でもそれをやると二度とあの発掘隊から依頼が入らなそうだから、シャルロやアレクに悪いか。
取り敢えず、シェイラを誘ってどこかでうまい飯を食べるとしよう。
10日間(と言うか実質最後の1日)の活躍で300万円相当の報酬w