035 星歴550年 赤の月 10日 裏情報
親って言うのは実は色んな事が見えているようだ。
内緒なつもりでえげつないことをやっていたら、それも評価の一部になっているって子供たちは気がついているんだろうか?
「シェフィート家の次男ってどんな人間だと長は思っています?」
久しぶりに盗賊ギルドに顔を出して長に聞いた。
「ほほう、三男に助けを請われたか」
もう知ってやんの。
「三男は魔術師になるからライバル脱落ということで、ここで長男を助けても次男は許してくれると思っているそうです。
長の読みはどんな感じですか?敵に回したら後々後悔するようなタイプなら『無理だった』で済まそうと思っているんですが」
朝からワインの入ったグラスを手に、長が机を離れてソファに来た。
「まぁ・・・ある程度執拗な相手ではあるが、確かに三男に対してはそれなりに甘いかもな」
「シェフィート家の将来的な跡取りとしては、長男と次男とどっちの方が望ましいと思っています?」
ゆっくりとワインを一口味わってから長が答えた。
「長男がずっと次男を抑えられるかどうかは分からないが・・・。
次男が跡取りにならない方がいいかな。あれがシェフィート家をついだら、盗賊ギルドにとって仕事が増えるかもしれないが、暗殺ギルドの仕事も増えそうだからな。
そういう人間が国を代表する大商家のトップに立つのは長い目で見ればマイナスだ」
「社印を盗んで足を引っ張るだけじゃなくって暗裏まで使うタイプなんですか、その次男?」
「徹底的に味方と敵とを分けて考えるタイプだ。味方・・・というかシェフィート家の者に対しては足を引っ張る程度だが、敵となれば暗殺でも恐喝でも誘拐でもやって来ている。まあ今までのところはそういう扱いを受けても当然な相手にしかやっていないが」
おいおい。
既にやっているんかよ。
刃には刃をというタイプは、そのうち血を流させることに慣れてくることが多いからなぁ。
一応味方との争いは足を引っ張る程度のレベルなら、ここはアレクの頼み通り長男を助けておく方が良さそうだな。
「シェフィート家の三男から依頼を伝えます。社印を奪回して欲しいそうです」
ワインをもう一口味わいながら長が考えた。
「では・・・盗賊ギルドは幽霊にその依頼を振り分けよう。受けるか?」
そう来るか、やはり。
「あんまり時間をかけて探す暇、無いんですが」
にやりと長が笑った。
「場所はウェスト・ヴィストにある別邸だ。あの社印が無くなった時期に次男があそこに行っている。
これがシェフィート家西ルート社印の印だ」
正式な社印を押した立体像つき蝋印の押してある書類を長が持っていた。
これがあればその波動と共鳴する物体を探せばいいので社印探しも楽になる。
「なんだ。既にアレクの親父からも頼まれていたんですか」
一昨日盗まれた社印の正式印なんて、そう簡単に手には入らない。
この時点で長に渡せる人間なんて、アレクの親父か長男もしくは盗んだ本人ぐらいのもんだ。
「シェフィート家ぐらい大きな商家となると、何かと裏とも繋がりが出来るからな。
親父さんの依頼は、『盗賊ギルドに頼みに来るだけの覚悟を見せたら助けてやってくれ』だとさ」
「シェフィートの家長は長男が来ると思っていたんですか、それともアレクが俺経由で来ると想定していた?」
長が肩をすくめた。
「さあね。どちらも有りだと思っていたんじゃないか?奇麗事ばかり言っていてプロに助けを求める覚悟が無いんだったら今回は次男の勝ちというところなんだろうな」
長男が盗賊ギルドの手を取る覚悟が無くても相談役の三男がそれを出来れば合格というところか。
次男にはそんな信頼する相手がいるんかね?
いないとしたら可哀想という気がするが、それもマイナスだな。
「では、俺の取り分は5分というところで、いいですか?」
「休業中なんだ。6分出すよ」
おやまぁ。長が親切だ。
何か怖いかも。