347 星暦553年 橙の月 17日 これも後始末?(7)
「今回の出費って国から補填される訳じゃあないよな?」
ファルータの裏ギルド代表らしき男に連れられて上水道の分岐点を回りながら青に尋ねた。
昨日は中央広場近辺を見て回り、ついでに近くにあった分岐点も確認したのだが、特に何も見つからなかった。
まあ、あれだけ人通りが多いところに10日も前から魔具を仕掛けておくのは発見の危険が高いよなぁ。
・・・そう考えると、俺の昨日の作業って完全に無駄?
とは言っても調べないわけにはいかないし。
中央広場そのものはそれ程大きくはなかったので、数日おきに夕食でも取る際にでも見て回るか。
シェイラも俺がこっちにいる間にちょくちょく食事を一緒に取るために来たいって言っていたし。
いい加減、ヴァルージャの食事処は飽きてきたからな。
たまには違うところで食べたいらしい。
パレードのルートはまだ不明で、軍部からの情報待ちだ。
明日ぐらいには届くのでは無いか、と裏ギルドの人間が言っていた。
先に上水道の分岐点を潰しちゃった方が無駄が無いかな?
上水道の分岐点は、一度確認したらその後は裏ギルドが見張りを残しておくので再確認する必要が無い。
パレードのルートは人通りが多い場所だったら中央広場と同じで、あまり早くに魔具の設置は考えにくいから、再確認の必要が生じるかも知れない。
パレードのルートそのものが直前まで秘密だったら楽なんだが、警備やら邪魔になる屋台とかの撤去なんかの手配が必要なので、祭りの5日前に公表されるらしい。
別に王太子がファルータを訪れる訳では無いのに、パレードって誰がするんだ?と青に聞いてみたら、新公爵とその夫人が馬車に乗って街中を移動するらしい。
・・・却って王太子が来るよりも狙われそうだなぁ、おい。
しっかし。
考えてみると今回の事件ってもの凄い人力を使っている。
分岐点の見張りだけだって50人は必要だ。
それどころか四六時中見張るとなったら、交代要員を入れて倍の100人は必要かな?
その上、中央広場やパレードのルートも調べて見張っている人間が必要だし。
更に、スラム街や下町も俺に頼まないとしてもそれなりに見て回るだろう。
そして祭りの当日には、起きるであろう騒動に対応するために更に多くの人員を準備しておく必要がある。
例え火事や爆破を事前に抑えられて物的被害が無かったとしても、人件費だけでも莫大な出費だ。
「王都からの助っ人は義援金で賄うからファルータの裏ギルドの出費にはならないが・・・。
ファルータ側が集めた人員の費用や何かあった時の出費はファルータで飲むことになるだろうな」
青が肩を竦めながら答えた。
うへぇ。
ガルカ王国、恨まれそうだな。
かといって、ガルカ王国の一般市民は王国の情報機関なり神殿なり政府なりが企んでいるらしき今回の報復のことなんか知らないだろう。
下手にファルータの裏ギルドが出費分を取り返そうとガルカ王国で頑張ったりしたら、アファル王国への悪感情がかき立てられ・・・下手をしたら戦争論が高まったりしかねない。
あそこは元々庶民の暮らしが苦しいから、外に怒りを向けさせることで権力階級への恨みを逸らしているらしいからな。
破壊的行動の応酬なんて、損害だけを生み出すだけで虚しいだけなんだけどなぁ。
これで実際にどちらかの領土が広がるんだったらまだしも、今回は嫌がらせから発しているらしいし。
前回の騒ぎみたいに、主要な国境近辺の貴族の協力を得た上で王族を暗殺しまくって混乱を招き、その隙を突いて攻め込めばまだ成功する可能性はある。
それを失敗して、アファル王国内に配備していた人員を逮捕されたから裏切りの報復に出るってさぁ。
ガルカ王国は損切りが出来てないよな。
上の人間はもっと冷静に判断を下さないと駄目だろうに。
ガルカ王国の元々の動きの諸悪の根源は、王太子の若き頃の過ちと前ファルータ公爵の八つ当たりじみた売国行為だ。
だが、王家も公爵家もそれを認めるわけにはいかない。
認めないからには、何かが起きたとしても下手に手厚く補助金を出すわけにも行かないだろう。
まあ、ファルータ公爵家にはそれなりに資産があるはずだから、領民の損害を補填できるかな?
とは言え、裏ギルドが『領民』と認識されているかは非常に怪しいところだが。
こんだけ頑張っているのに、公爵家には『領民ではないならず者』なんて思われて全く資金援助なかったら、裏ギルドも切ないだろうなぁ。
ちゃっかりシェイラとのデートをプランしているウィル君w
次は19日に更新します。




