343 星暦553年 橙の月 15日 これも後始末?(3)
「ちなみに、祭りはいつの予定ですか?」
学院長から軍部へ話を通して盗賊ギルドへの情報提供の徹底を頼んでおいてもらうことを決め、ギルドへ向かうおうと席を立とうとしてふと尋ねた。
まあ、さっきシャルロに婚約のことを聞いたんだから、まだかなり日数があるんだろうが。
「10日後だ」
えぇ??
「随分と早いですね。
先程シャルロに聞いたばかりですから、婚約の話ってまだ決まったばかりですよね?
以前王都で魔術院関係の祭りを開いた時なんて一月近く準備期間があったのに、それでもかなりバタバタしてましたが」
学院長が肩を竦めた。
「婚約も祭りの話も、お主らがヴァルージャに行っていた頃から決まっていたよ。
だが、婚約の祝いの祭りのずっと前に婚約を発表するのも変だろう?
だから名目は非公開ながら、全国で祭りの準備は始まっていたんだ。
ガルカ王国の話はつい最近明らかになったんだがな。
どう対応するかで色々と右往左往して、儂の所に話が来たのが昨日だ」
そうか。
婚約の発表を祝うである祭りってどうやって準備するのか、考えてなかったな。
発表してから何十日も経ってからそれを祝う祭りをしても、確かにちょっと間が抜けた感じだよな。
結婚式の祝いだったらずっと前から分かっていてもおかしくないが。
「ちなみに、魔術院ではなく学院長のところに話が来た理由は?」
いくら特級魔術師とは言え、こんな大事だったら魔術院が扱うべき案件じゃないか?
しかも、魔術師を大量に動員すれば俺が関与する必要も無かっただろうに。
・・・とは言っても、若手魔術師として結局駆り出された可能性は高いかもしれんが。
それでも、大勢の若手魔術師の中の一人という立場だったら随分と気が楽だったんだけどなぁ。
「前ファルータ公爵が政権転覆を図っていたという話は極秘情報だ。
軍部はガルカ王国の手の者を始末するために早い段階から関わっていたのである程度は推察しているだろうが、あやつらは命じられたことを実行するのになれている。
だが、魔術院に頼み事をしたら、『何故公爵領の領都ファルータが標的にされるのか』ということを聞いてくるだろうし、答えなかったら自分達で調べ始めるだろう。
大元が王太子の若き頃の過ちと、発覚したら内乱に繋がりかねん庶子の存在だからな。
突かれたら困るから、出来れば魔術院には関わらせたくないそうだ」
不機嫌そうに学院長がため息をついた。
おいおい。
それって、王太子の都合だよな?
まあ、宰相とかも関与して考えた末のことだろうけど。
第一、ファルータ領は国境の国なんだから別に標的になってもおかしくないだろうに。
それとも、王都で無くファルータ領を集中的に調べることに反対されるとでも思ったのかね?
確かに御落胤の話が広まったら不味いが、そのせいで魔術院の助けを頼めず、俺だけが探すことになって失敗したら・・・誰の責任って事になるんだ?
「幾ら王都よりは小さいとはいえ、ファルータも領都としては大きいです。
現時点で魔道具が既に設置されているならば10日の間に探し出せる可能性はそれなりにありますが、10日間かけて探している間に、既に探し終わった場所に魔具を設置されたりしたらどうしようもありませんよ?」
少なくとも、俺一人で最後の瞬間まで魔具の設置を完璧に監視することなんて、出来ない。
学院長が苦笑いしながらお茶のお代わりを注いだ。
「分かっている。
ウィルが調べ終わった場所は軍部か裏ギルドの人員を張り付けて新しく魔具を設置しに来る人間がいないことを確認することになっている。
上手くいかなくても・・・それはガルカ王国の悪行であり、究極的にはファルータ公爵の婚約者に手を出すなんて愚かなことをした王太子の責任だ。
誰もお前を責めたりはせんよ」
そうでっか。
「どちらにせよ・・・俺の名前とかその他詳細が軍部とか政府の方に漏れないように、お願いしますよ。
単に学院長の元教え子っていうことにしておけば、候補者の数が多すぎて絞りきれないでしょうから」
こういう時に、王家との間に入っているのが『魔術学院の学院長』であるというのは助かるよな。
「うむ、分かっている」
俺にお代わりのお茶を差し出しながら学院長が頷いた。
はぁぁ。
ああ面倒臭い。
これから学院長が軍部に話を通しに行くとなったら、盗賊ギルドに情報が回ってくるのは早くても明日、もしかしたら明後日かもしれないな。
まあ、裏ギルドの方で殆どの情報は既に持っているだろうから、さっさと長のところに行って、段取りについて話し合ってくるか。
次は7日に更新します。