339 星暦553年 黄の月 20日 ちょっと趣味に偏った依頼(22)
ウィルの視点に戻っています
「シェイラに結婚の事を聞いたら、吹き出されたぞ。
お前ら、からかったな?」
デートの後にシェイラを送って宿に戻った俺は、俺が帰ってくるのを待ち構えていたアレクとシャルロに文句を言った。
「え~?
結婚する気が無いんだったら付き合おうなんて言うな~っていう女性もいるんだよ?」
心外そうな顔をしてシャルロが答える。
が。
おい、口の端がヒクヒク動いているぞ。
笑うのを堪えようとしているのが丸見えだ。
「まあ、シェイラがそういうタイプだとは思わなかったけどね。
唐変木なウィルの事だから、そのくらい踏み込んでおかないとそのうち愛想をつかれるんじゃないかと思ってそっと背中を押してあげただけさ」
アレクがニヤニヤ笑いながら付け加えた。
こちらは笑っているのを誤魔化そうともしていない。
友人だと思っていたのに、俺を玩具とするなんて。
裏切り者たちめ!
「で、シェイラは何て言っていた?」
シャルロが身を乗り出して聞いてきた。
「別に。
まだ付き合い始めて数日なんだから、結婚なんて全く考えてもいなかったってさ」
俺だって、知り合って20日もたっていない相手と生涯一緒に暮す約束をする勇気なんかないぞ。
一応、シェイラだったらそれも不可能では無いかも、と思ったから本人の意見を聞くためにシャルロ達にせっつかれたんで話題に持ち出したが。
「子供に関しては?」
アレクが更に追及する。
「学者として一人前になってからだってさ。
どうも、子供がいると女性は職場で不利っぽいな。そんな不利な条件でも是非って言われるぐらいの能力を付けてから考えたいって」
肩を竦めながら答える。
はっきり言って、自分の子供なんぞ想像もつかん。
別に欲しいわけではないので、例え将来的にシェイラと結婚するとなっても一人前になるまで子供は待つというのは構わない。
・・・というか、まだやっと『女性と付き合う』ということに慣れ始めたばかりなんだから、そんな将来の事なんて考えるのも早すぎる!
唐変木だ、朴念仁だとシャルロもアレクも言って、そっとどころでなく背中をバシバシ押しまくってくるが。
ノンビリ、なるがままに流れに任せるのが何がいけないんだ??
それっぽいことを帰り道に愚痴ったら、シェイラも笑いながら合意していたぞ。
・・・何故シェイラが笑っていたのか、微妙に気になるところだが。
「何だかんだと助言をガンガンしてくるが、お前らはどうなんだよ?
ケレナだってもうそろそろ結婚しないと行き遅れになるんじゃ無いか?
アレクなんて、仲の良い女性がいるという話すら聞かないぞ」
反撃に転じたが、二人は特に慌てる様子は無かった。
「ケレナはねぇ、もう少し自由にしていたいんだって。
でも、確かに行き遅れの汚名は避けたいから、近いうちに婚約式はしようかって話しているところ。
ケレナと僕の母親達が凄く熱心だから、適当に任せてる」
ほぇ~。
自分から持ち出した話題だが、シャルロが結婚して夫や父親になるっていうのも想像を絶するな・・・。
「私とて、一応シェフィート家として好ましい女性に紹介されてはいるぞ?
とは言っても、3男だからな。
特にプレッシャーはないし、セビウス兄上が片づくまではどちらにせよ順番待ちだ」
アレクが肩を竦めて答えた。
順番待ちねぇ。
それこそ、子供が欲しい女(しかもシェフィート家に好ましくなかったら?!)に惚れたらどうするんだろ?
・・・まあ、アレクが誰かに惚れてあたふたするという姿を想像出来ないが。
ウィルは仲間に遊ばれてます。
取り敢えず、ウィルの春に関しては一段落と言うところかな?