337 星暦553年 黄の月 11日 ちょっと趣味に偏った依頼(20)
「あのデルバンってどんな奴なんだ?
学者と言うよりはどっかの商会の若者みたいに見えたが」
目的の巨樹に向いながら空を進んでいたら、何気ない風に聞いてみた。
あのデルバンって一般的な浮世離れした学者とは違って見えた。
シェイラも浮世離れしていないから、もしかしたら同じような商会出身の人間なのかな?
「もの凄く意外だと思うけど、実はあれでも軍閥の家系の変わり種なのよ。
まあ、興味の方向性が文明の推移に対する軍事的な影響というところが実家の影響かも知れないけど。
このフォラスタ文明は分からないことが多かったんだけど、ほぼ全く荒らされない遺跡が発見されたということで軍事的な面なことも分かるかも、ということで参加を頼み込んだみたいね」
シェイラが軽く笑いながら答えた。
軍事的な影響ねぇ。
まあ、確かに他の文化圏の国なり集落なりと争っていたら人材も資源もそちらにさかれて、文明そのものの発展も歪むだろうし、場合によっては立ちゆかなくなることもあるだろう。
文化の盛衰に軍事的な側面も大きな影響力を及ぼしていそうだ。
「随分と仲が良さげだったな。大学院では一緒に研究とかしていたのか?」
何か、ついつい問い詰めるような口調で尋ねてしまう。
いや。
自分は単にちょっと好奇心を感じているだけなんだよ?
尋問するつもりは無いんだが。
シェイラが肩を竦めた。
「まあ、大学院にいるのも要は学者の卵達だからねぇ。
それなりに浮世離れしたタイプが多かったから、それとは少し違うタイプの私とかデルバンはそれなりに話が合って一緒に居ることが多かったかもね」
ふ~ん。
話が合ったんだ。
・・・何か、恋人の浮気を疑う焼き餅焼きな男のような思考になっている気がするぞ。
どうしたんだ、ウィル??
シェイラはちょっと気があった程度で、別に彼女に仲の良い知り合いや同僚が居たってお前には関係ないじゃ無いか。
「ウィル達もそんな感じだったの?」
自分のモヤモヤした変な思考回路に混乱していたら、シェイラが何か尋ねてきた。
「はん?何が?」
「ウィルやアレクやシャルロも、一般的な魔術師の卵達と違ったから魔術学院で仲良くなったのかな?って思ったんだけど、そうだったの?」
シェイラが質問を説明してきた。
ふむ。
俺たちが他の連中とそれ程違ったとは思わなかったが・・・。
まあ、確かに多少は毛色が違ったかも知れないな。
「魔術師っていうのは学者と違って興味では無く、特定の能力を持っていたらそれを鍛えて魔術師になるか、封じるかのどちらだからな。
学者の世界ほど、均一的では無いと思うぞ。
でもまあ、確かに俺たちは3人とも標準的な生徒のタイプからは外れていたのは事実だな。
標準外同士で仲良くしようって付き合った訳では無いけど、お互い考え方が周りとちょっと他と違う人間だったから、魔具開発で生計を立てよう何てちょっと変わった事業計画を一緒に実行できたのかも知れない」
まあ、俺やシャルロには『事業計画』と言うほど、論理的な計画は無かったけど。
「事業計画??
商会が新しいビジネスを展開したり、店舗を開く際に事業計画を提出して上部で話し合うっていうのは良くあることだけど、魔術師にもそんな物があるの?」
シェイラが聞いてきた。
そうなんだ。
事業計画って商会の常識なんだな。
「俺とシャルロは適当に新しい魔具を開発できたら良いな~と考えていただけだった。だからアレクがちゃんと色々な状況を想定した資金計画表を含めた事業計画を俺たちに見せたときには、思わず目が点になったんだよね。
それのお陰で『今年は予算到達したから後は遊ぼう』と決められたんだぜ?
無理に働き過ぎなくて済むから、あの事業計画はなかなかの優れモノだな」
シェイラが笑い転げて、こちらに寄りかかってきた。
おっと。
手を繋ぐ以上に近いコンタクトにちょっとドキッとする。
「あははは。
アレクの事業計画のお陰で、今回の指名依頼を請けてくれたの??
アレク様様ね!」
「まあな。
今年は沈没船を見つけるなんてラッキーな事があったから、資金が潤沢だったんだよね」
ぐっとシェイラの手を握る力の力が強まった。
「沈没船??!!
いつの????」
相変わらずだなぁ・・・。
でも、そんなところが面白いんだよね。
変な男も現れたことだし、ちょっとシェイラに対する微妙に不思議な感情を、もう少し良く考えてみるか。