334 星暦553年 黄の月 9日 ちょっと趣味に偏った依頼(17)
シェイラの視点です。
>>>サイド シェイラ・オスレイダ
ウィルとの夕食は中々良い感じだった。
本人的には彼ら3人とも誘われたと思っていたのか、自分一人であることに関してちょっとすまなそうな事を言っていたが、にこやかに笑いながら彼を見送っていたシャルロと目が合ったので、こちらも小さく笑って返すだけにした。
変にはっきり説明して、ウィルに気まずい思いをさせたくないからね。
しっかし。
3人一緒とは言っていないのに、若い女性に誘われて自分だけではなくチームで誘われたと思うなんて、本当にウィルは朴念仁なのね~。
いや、唐変木だったかしら、シャルロが使った言葉は。
どちらにせよ、ニブチンよねぇ。
別に無愛想とか偏屈という訳では無いんだけど。
夕食での話はそれなりに弾み、デザートのころにはウィルの両親の事も聞けた。
・・・というか、両親が居ないという話を聞いた。
大きな商会の従業員が仕事関係で死んだ場合は、それなりに商会が残された家族の面倒をみる。
仕事に関係なく死んでしまったら、面倒を見るのは余裕のある家族か、余程親しい関係にある人間だけだ。
下町に住んでいたとの話だから、ウィルの両親はそこまで余裕がある親しい知り合いがいなかったんだろうなぁ。
孤児院に関してはいい話は聞かないから、それなりに大変な思いをしたのだろう。
とは言え、裏社会に足を突っ込みかけたとは、一体何をしていたのかしら?
興味があるが、そこまで突っ込んで聞くのはもう少し親しくなってからの方が良いでしょうね。
成功した魔術師のあまり褒められた物じゃ無い過去をほじくり返すというのは、例えこちらに悪意が無いとしても何らかの形でその情報を利用しようとしていると思われかねない。
「そう言えば、俺たちの加護精霊に聞いたんだが、この遺跡の巨木には樹木霊が居るんだって。
樹木霊の協力を得ていたから人避け結界がこれだけ長い間保持されたようだから、他にも同じような結界と遺跡があるかも知れないね」
ウィルの過去に関してぼんやりと考えていたら、ウィルがとんでもないことを言い出した。
「・・・はぁ?!?!」
思わず大声を出してしまい、他の客から注目を集めてしまった。
「あ、すいません」
周りに謝りながら、ウィルの腕を掴む。
「どういう事??!」
捕まれた腕をちょっと迷惑そうに見てから、ウィルが反対の手でお茶を注ぎ足しながら肩を竦めた。
「フォラスタ文明というのは、自然と融合して生活していたスタイルなんだろ?樹木霊と共存するのもその一部なんだろうな。
自分達で樹木霊を育て上げたり出来たのか、樹木霊が育った場所に自分達の生活場所を作って助けを得ていたのかは知らないが」
何てこと!
樹木霊というのがフォラスタ文明の根幹にあったというのなら、これは学会を揺るがすような発見だ。
それら樹木霊がいる巨木がまだ生きているということは、彼らから話を聞けるのだろうか??
「凄いわ!
その樹木霊とかからも、話を聞けるのかしら??」
思わず、今まで色々と疑問に感じた事に思いをはせる。
考古学というのは推論で作り上げるパズルゲームのような学問だ。
色々な情報からその文明の形を推察し、パズルのように一つ一つの発掘物から得られた情報を当てはめて全体像を得ようとする。
今までの色々な推論に関して、解説は無理でも当たりか外れかだけでも教えて貰えれば・・・どれ程我々の研究が進むことか!!
ウィルが気まずそうに頬を掻いた。
「あ~。
相手は一種の精霊みたいな存在だからなぁ。
樹木だから、精霊よりも更にノンビリしていて、意識が希薄っぽいから碌な返答は得られないと思うぜ。
それこそ、ガルバ達が頑張ってる遺跡だってシャルロがあいつの精霊に頼んで見つけて貰った物だが、それに関して聞こうとしたら『あそこに人間が住んでいた。いつの間にか居なくなっていた』としか答えられなかったみたいだからなぁ」
そう言えば、ガルバ達が発掘作業をしている遺跡はシャルロ達がトレンティス侯爵夫人の所に遊びに行った際に見つけたと聞いた。
自分達で偶々掘り当てたのでは無く、精霊に尋ねたんだ・・・。
ああ、私も精霊の加護が欲しいわ!!!
「聞いてみないことには分からないでしょ?!」
思わず掴んでいたウィルの腕を振り回す。
「まあ、明日ちょっと清早に頼んで樹木霊に話しかけても良いけど」
肩を竦めながらウィルが答えた。
よし!
尋ねたい質問を頭の中でリストアップしながら、ふとウィルが言った言葉の意味に気が付く。
「そう言えば、他にも遺跡があるかも知れないって?」
「ここの遺跡が見つかったのは、樹木霊が一体枯れていて結界が弱ったところに、結界が見えてそれを無効化できる魔術師が通りかかったからだ。
つまり、結界に協力している樹木霊が全て健全なフォラスタ文明の集落なり町は、そのまま人が近寄れずに残っている可能性があると思うぜ。
ただし、どうやって見つけるかはかなり難しい話になるが」
私のカップにもお茶のお代わりを注ぎながらウィルが答えた。
まだ他にも遺跡が!
思わずわくわくしてしまう。
が。
そうは言っても、学者の数も予算も限られている。
突然幾つもの遺跡が見つかったところで、それをきちんと発掘するのは難しいかも?
「見つけるのが難しいって?」
折角注いで貰ったので、ウィルの手を離してカップを手に取りながら尋ねた。
「樹木霊って木の中からはみ出してこないから、魔術師にも見分けが付きにくいんだよ。
しかも、大きな森の中だったら遺跡に関係の無い樹木霊もそれなりに居るだろうし。
まあ、一番お手軽なところで、ここみたいに比較的アクセスしやすい人里に近い場所にある『迷いの森』や『入れぬ森』みたいなところを、幻獣か精霊と契約している魔術師に確認して貰うというところかな?
人里離れた森の中にある樹木霊の居る樹を探すなんて事になったら、何百人もいる群衆の中から、左利きで頭痛持ちの人間を探せ、とでも言うような感じになって途方も無く大変だと思うぜ」
幻獣か精霊と契約している魔術師、ねぇ。
幻獣はまだしも、精霊の加護を持つ魔術師なんて数が少ない上に引っ張りだこだから雇おうと思ったらかなり高くつく。
・・・シャルロとウィルが精霊の加護持ちと言うこと自体が初耳だったが、流石にそれを知っていたらあの依頼料は言い出す勇気は無かったと思う。
幻獣との使い魔契約も・・・少なそう?
学生なら幻獣って好きそうだけど、大人の魔術師が幻獣を連れ歩いている姿なんて殆ど見たことがない。
でもまあそこら辺に関しては、歴史学会のお偉いさんなり別の遺跡を発見したい学者に任せればいいわね。
「取り敢えず。
明日の朝、樹木霊に質問するのに協力してね!!!」
ふふふ~。
楽しみで、今晩は眠れないかも知れない。
それなりにデートっぽい雰囲気だったのに、樹木霊の話を聞いてすっかり個人的なことは吹っ飛んでしまいました。
実は、シェイラも残念な人だったんですね~。