331 星暦553年 黄の月 9日 ちょっと趣味に偏った依頼(14)
今回はアレクの視点です。
>>>サイド アレク・シェフィート
「魔術陣はこれで正しいはずなのに、起動するときと起動しない時があるってなんなんだろうな?
全く起動しないというのならどこか間違っているんだろうとか見落としているとこがあるんだろうと思えるが、同じ条件で同じ魔術陣なのに結果が変わるなんて、初めて見たぞ」
ウィルが頭を抱えながら目の前の樹を睨み付けた。
流石に全く荒らされていないだけあって、この遺跡には色々興味深げな魔具や魔術陣があったが、折角つい最近まで機能していた人避けの結界があったのでまずそれを再現しようと3人で力を注いでいたのだが・・・。
上手くいかない。
取り敢えずは長持ちしなくても構わなかったので、まず最初に自分達の魔力だけで魔術陣を形成しようとしたらそれは全く起動する気配すら見せなかった。
そこで、遺跡のやり方通りに樹を組み込んで形成してみた。
何分魔術陣に樹を組み込む試みは初めてだったので、数日かかったが、やっとそれも上手くいくようになった。
が。
一貫性のある結果が得られない。
上手くいく時と、いかない時があるのだ。
同じ樹を使っても、魔術陣が起動するかしないか、殆どランダムなのだ。
時間帯や誰がやったか、規模など色々変えてみるのだが、規則性が見当たらない。
「なんで上手くいかないんだ~~!!!」
頭を抱えながらウィルがしゃがみ込み、空に向かって叫んだ。
気持ちは分かるが。
突然大声で叫ぶと、皆がびっくりするじゃないか。
ちょっと距離が離れていたので学者陣は気にしていないようだが、偶々近くに居た護衛担当の人がびくっと飛び上がってこちらを振り向いていたぞ。
『そりゃあ、ちゃんと樹に話しかけてないからじゃ無い?』
突然、ウィルの守護精霊が姿を現してウィルに話しかけた。
「へ?」
私達3人が清早に注目したら、その横に蒼流も姿を現した。
・・・シャルロが清早に注意を集中したのが面白くなかったのか?
意外とこの大精霊はシャルロに関しては変な方向に心が狭いところがあるから。
それが理由かどうかは分からないが、蒼流が私達3人の頭にあった疑問に答えてくれた。
『樹とて生きている。
ある程度以上育った樹木には精霊と似たような意思が生まれることが多い。
ここの文明を築いた人間達は、そういった樹木霊と意思を交わし、その力を借りることに長けていたのだ。
彼らの魔術は樹木霊の合意を必要とするものの、それだけ強力で長続きした。
シャルロ達は樹木霊に話しかけること無くここの民の魔術陣を再構成したから、樹木霊がそなた達の意図に気が付き、気が向いて協力した時だけ上手く機能し、それらの条件が当てはまらぬ時には失敗していたのだよ』
「うわ、本当???
何でもっと早く言ってくれなかったの??」
シャルロが蒼流に言いつのった。
『まさか気が付いていないとは思っていなかったのでな』
肩を竦めながらの精霊の答えに思わずがっくり頭がたれてしまった。
精霊にとっては常識的なポイントだったのか・・・。
蒼流はシャルロが幼い頃から一緒に居ただけにそれなりに人間慣れしているのだが、それでもちょくちょくこういうことがある。
今回も、ウィルが質問のような形で叫んだから答えをくれたものの、そうでなければずっと精霊達は答えをくれなかったのかもな。
私達も、精霊に質問しようとは思わなかったし。
「うわぁ・・・。
何かちょっと生命力の光が普通の樹とは違うとは思っていたけど、まさか樹木霊なんつーものが居たなんて。
気が付かなかった」
ウィルが首の後ろを揉みながら立ち上がった。
「何か、違いは見えていたの?」
シャルロが首を傾けながらウィルに尋ねる。
「ちょっとはね。
だけど、その場から動かないからさぁ。
普通の精霊みたいに形が明白にある訳じゃないんだよね。樹の中でこちらにエネルギーが集中している時があるなぁとは思っていたんだけど、樹全体がその樹木霊の体みたいな物なんで、分かりにくいんだ」
ウィルがため息をつきながら答えた。
『やっぱり、声も聞こえてなかったんだ。
間に入って話を伝えてやろうか?』
清早が宙にぷかぷか浮きながらウィルの頬をつついて尋ねた。
ふむ。
精霊を通せば樹木霊との意思疎通が可能なのか。
だとしたら、どのように交渉すればこの人避け結界の魔術陣が上手く起動するかも分かる可能性が高いな。
それこそ、幻獣であるラフェーンや妖精王のアルフォンスに頼んでも可能かもしれない。
が。
守護精霊が居る人間や、幻獣や妖精と使い魔契約を結んでいる人間はそれ程多くは無い。
「どういう交渉をしなければならないかとかを聞いておくのは参考になると思うが、実際にこの魔術陣を活用出来る人間はほんの一握りになりそうだな。
しかも、この魔術陣を設置したいところに、協力的な樹木霊のいる樹が生えているとは限らないし」
私の言葉に、ウィルとシャルロがため息をついた。
「そうだな。
折角ぼろ儲け出来そうな大発見になるかと思ったのになぁ。
一通り話を聞いたら、諦めて遺跡の中にもっと汎用性のある魔具や魔術回路が無いか、探してみるか」
「そうだね。
シェイラを手伝いながら、もっと探してきて。
僕たちも固定化の術とか掛けながら探しとくから」
にこやかにシャルロがウィルに言った言葉に、ウィルの頬が微かに赤くなった。
「シェイラを手伝いながらって・・・。
単に、ツァレスが高所恐怖症だから、シェイラと見て回っているだけじゃ無いか」
まあねぇ。
とは言え、他の発掘隊の人間がシェイラの代わりに浮遊の術で見て回ろうと提案した時に、それとなくシェイラに任せるべきだと説得しているのを何度か見たぞ?
あまりからかうと折角の春の兆し(かもしれない?)をウィルが意固地になって握りつぶしかねないので、私達は何も言っていないが。
手を繋いで二人であちこち動き回っている姿は、中々微笑ましい。
色々と新しい発見もあることだし、契約を延ばしてここにちょっと長居しても良いかもとシャルロと話し合うぐらいは。
次は25日に更新します。