033 星暦550年 藤の月 9日 評価
自分がどれだけ満足できる結果のモノが出来たとしても、それの上を行く人間がいることは多い。
学生の間なんて、基本的に卒業生の殆どが自分の上を行っていると思った方がいいだろう。
・・・誰よりも上を行くことが出来る様になるには、どのくらいの時間と鍛錬が必要なんだろう?
教室の前に全員のランプが並べられていた。
俺らチームの3つが左端、あとは幾つかずつ真ん中と右端に固まっている。
「まず、どのランプも光を発したから一応全員合格だ」
ニルキーニ教師がクラスに発表した。
「こちらの左三つは花丸というやつだな。真ん中のはそこそこ良し、右端のは次回はもう少し頑張れというところだ」
生徒が自分のランプがどこにあるのか見ようとざわざわ動く。
おいおい。教室に入った時点で見ておかなかったのかよ。
「この右端のは既存のランプの術回路をそのままコピーした上でガラスも俺が見せた三角錐にしただけ。
実験をして工夫をしろと言ったのに、術回路をコピーするので精いっぱいだったのか?それとも工夫をすることを思いつかなかったのか。
実験がうまくいかない時とか、何を実験すればいいのか分からなかったら俺なり他の教師なり先輩なりに相談しろ。
何でも出来る魔術師なんていない。相談して他の人間の知恵を利用できる能力も重要なんだぞ」
右のランプを作ったらしき生徒たちが頷いた。
「こちらのランプはそれなりに努力をしているのだが・・・あまり魔力消費の効率性を考えていないようだな」
各ランプの前に書いてあった数字を順番にクラスに見せる。
「ここに書いてある時間で魔力が尽きた。いかに光量を多くするかと言うことに色々工夫したようだが、魔具というのは一度使ってそれきりと言うモノは殆どない。継続的に使う為には魔石をどれだけ長持ちさせるかも重要なポイントだ」
次にニルキーニ教師は左側の点いたままのランプを指した。
「こちらは今すぐ売りに出せなくもないぐらいいいな。
見てもわかるように、昨日の夕方点けてから今まで魔石の魔力が続いている。魔力消費の効率性もきっちり考えられているし、ガラスの素材も面白い工夫がなされた上、形もその素材に合わせて効率がいいものにしている」
「でも、その青黒いのなんて、ランプとしてあまり機能しませんよね?」
負けず嫌いのタニーシャ・ベニングが声を上げた。
ニルキーニ教師が苦笑した。
「ま、読書用のランプとしては使えないな。
ただ、面白い光り方をするからパーティをやるような場所での需要はあるし、実は犯罪捜査とか品質管理の検査の際に実際に使われているんだよ、このブラック・ライトは」
へぇぇ。
ブラック・ライトというのか、あれ。
パーティにも犯罪捜査にも行ったことが無いので、そんなところで実用されているとは知らなかった。
「この3つのランプで利用されているのが小型術回路の連結だ」
ニルキーニ教師が俺のランプを取り上げてガラスの部分をはずし、術回路をクラスに見せる。
「術回路というのはより効率的なモノを作ることが重要だ。効率的な新しい術回路というのは劇的に術の威力や効率を上げることがあるから、特許で保護されている訳だ。
だが、それ程効率的ではない術回路でも出力を上げることができる。それが術回路の連結だ。また、術回路を小さく、薄くすることで魔力の消費を抑えることも出来る。
これを次回の授業で教えるつもりだったのだが・・・ウィル達のグループは自分でそれを発見したようだな」
うう~む、この口ぶりでは術回路を小さくして繋ぐという手法は特許申請出来るタイプの内容ではないようだな。
ちっ。
まあ、今回は花丸と言うことで満足しておくか。
最初の実験課題で特許申請出来るほど凄いものが出来るなんて考える方が虫が良すぎる考えだったな。




