328 星暦553年 黄の月 7日 ちょっと趣味に偏った依頼(11)
>>>サイド シェイラ・オスレイダ
「これは・・・階段のステップな様な物を設置してあったのかしら?」
巨木の幹をぐるりと回るように段々上がっていく位置に小さな傷跡が続くのを観察しながらウィルを振り返る。
ウィルは目を眇めて巨木の幹をゆっくり見上げながら、頷いた。
「その可能性が高いかな。
あそこに1つ、元々嵌めてあった物が残っているっぽいぞ」
ウィルの手を奪い取る勢いで握り、そちらの方向へ引っ張る。
「そこに連れて行って!!!」
本来ならば下から順に系統的に見ていくべきだが、折角何百年も前の階段の一部がまだ残っているのだ。
まずは見てみたい。
一瞬、ウィルが握られた手を不思議な表情で見ていたが、何も言わずに術をコントロールして斜め上へ向かってくれた。
どうしたのかしら?
『どうだい?!フォラスタ文明の樹に対する細工の遺物が残っていたかい??』
通信機からツァレスさんの興奮した声が聞こえてきた。
「これだな。
北側だったから幹の生長具合が比較的小さかったのか、ステップそのものはひび割れて使えたもんじゃないが、物は残ったようだ」
ウィルが指した木片は、確かに巨木の北側にあった。
「・・・さっきの場所からここって視界に入っていなかったと思うけど、どうやって見つけたの?」
ウィルが肩を竦めた。
「固定化の術が掛っていたからな。
幹の周りにある、固定化の術を探したら視えた」
へぇぇ。
固定化の術が掛っている物が見えるんだ。
これは良いことを聞いた。
遺跡で発見された物は、古くてボロボロになっていると遺跡の一部なのか単なる樹から落ちてきた木片やそこら辺の岩なのか、判断しにくいことが多い。
何やら思わせぶりな形だから壊れた道具の一部だろうと思って必死に色々と考察していたのに、実は単にその地方に時々ある岩がそういう割れ方をすると言うような話はしょっちゅう歴史学会では笑い話として出てくる。
だが。
固定化の術が掛っているならば、確実に遺跡の一部だ。
と言うことは、固定化の術を掛けた痕跡がある物を全て印を付けて貰えば、かなり私達の作業が効率化出来そうじゃないかしら??
どうせ、建物の中にあった物ならまだしも外で自然に晒されていた物や地下に埋まっていたならば、数百年の前の物となれば固定化の術を掛けていなければ殆ど原形を保っていないだろうし。
『シェイラ!!
どうなのかい、階段の一部だったかい??』
ウィルの便利な能力の使い道(笑)に思いをはせていたら、通信機から焦れたツァレスさんの声が聞こえてきた。
「そうですね、階段の一部のようです。
まだ幹に固定されている部分がしっかりついていた間に、ステップの外側が何かの衝撃で割れたみたいですね。負荷が減ったことで今まで残りの部分が落ちずに幹に残っていたのかも」
割れて、2ハド程になった木片(に見える物)を調べながら答える。
さて。
ツァレスさんとしては是非ともこれをもっとじっくり見たいだろうが。
折角残った遺跡の一部を取り外してしまうというのも、考古学者の卵として抵抗がある。
他にもステップが見つかるかしら?
探し始めて直ぐに見つかったことを考えるとまだ幾つかは残っている可能性は高いが、全部を確認する前には何とも言えない。
もっとあるだろうと思って取り外してしまった後に、これが奇跡的に残っていた最後の一段だと分かったりしたら目も当てられない。
が。
ツァレスさんも色々調べたいだろうしなぁ。
ううむ。
思わず腕を組んで悩み込んでしまったら、隣でウィルが小さく笑うのが聞こえた。
「ツァレス氏はここまで来れないだろうねぇ。
取り敢えず、これで映像を撮って見せたらどうかな?」
肩に掛けていた鞄から何やら魔具を取り出してウィルが提案した。
「何、それ?」
流石魔術師。
色々魔具を持っているわね。
そう言えば、ウィル達って魔具を創るのが専門だとガルバさんは言っていたっけ?
「記録用魔具。
何ヶ月か前に、完成したんだ。
まだ売り出したばかりで使用用途を模索中なんだけど、こういう発掘現場で元の状態を記録するのにも良いんじゃないかと思って幾つか持ってきてみたんだ。
余程の魔力が籠もっていない限り、魔術陣そのものは記録するのは難しいんで自分達用には使えないんだけど、シェイラやツァレス達にとっては良いんじゃないかな?」
にやりと笑いながら何やらその魔具をステップの周りで動かしながらウィルが言った。
確かに、発掘現場の映像を記録できるとしたら凄く便利だ。
だけど。
発掘隊も歴史学会も考古学者も、幾ら便利でも魔具を買う予算は無いと思うのよねぇ・・・。
1ハドは20センチ程度です。
次は16日に更新します。