318 星暦553年 黄の月 2日 ちょっと趣味に偏った依頼
「魔術院から、僕たちに指名依頼が来たって」
俺がファルータ公爵関連の騒動に巻き込まれていた間にシャルロとアレクで開発に励んでいた浄水の魔具も大体完成し、細かい改良に関してちょこちょこ手を加えていた俺たちにシャルロが声を掛けてきた。
先程、通信機に何か連絡が入っていたのだが、どうやら魔術院からの連絡だったらしい。
・・・いつの間にか、通信機を持つ魔術師は魔術院を連絡先として登録させられるようになり、連絡が式ではなく通信機を使うようになっていた。
俺たちの開発したお手軽な携帯式通信機がそれだけ行き渡るようになったと言うことなので、収入が増えるのは嬉しい。
が、魔術院からの連絡が常に通るようになってしまったのはちょっと残念だ。
式だったら、途中で何か事故があったのかも~?と言って素知らぬふりも何回に一回なら出来たのに。
「指名依頼って?
しかも3人全員なんて、珍しいな」
知り合いが頼む際に指名依頼を使うことはあるが、その場合は一人を指定することが多い。
第一、通常は先にこちらに連絡が来るし。
それ程親しくない相手だと、シャルロの莫大な魔力や水関係の無敵性を目当ての場合とかがある。
もしくはアレクの商会関係の理解度の高さを買っている場合とか。
俺の特殊技能が目当ての場合とかも・・・いや、俺の特殊技能の場合は魔術院じゃなくって盗賊ギルド経由で来るな。心眼が人並み外れていることは、魔術師への依頼ではあまり重要視されないから。
どちらにせよ、個人に指名依頼が来ることはあっても、態々俺たち3人を指名するなんていう状況はあまり考えられない。
人数として3人必要というのなら、人数だけ指定すれば魔術院が適切な人員を選んで手配してくれるし。
「何とね~歴史学会!
どうも前回僕たちがお祖母様のところの遺跡に遊びに行った時の事が学会でも話題になったみたいで、遺跡に興味がある物好きな魔術師だったら、割安でも依頼を請けてくれるかも~ということでダメ元で依頼出してみたようだねぇ」
シャルロがポットにお湯を注ぎながら答えた。
歴史学会?
「つまりハラファとかガルバ達か?」
「彼ら本人はまだ僕たちが見つけたオーパスタ時代の遺跡で忙しいみたい。
だけど、今回南の方で新しい遺跡が見つかったんだって。
こちらも案外と良い状態で見つかったらしいんで、折角だからウィルに隠し金庫とか見つけて貰ったり、僕たちに固定化の術を掛けて貰ったりしたいな~っていう所らしいね
勿論、歴史学会だから依頼料金は魔術院が請けてくれるギリギリ最小限の金額(笑)」
お茶を注ぎながらシャルロが答えた。
何も頼まなくても俺たちの分まで注いでくれるんだから、本当に良い奴だよな~。
「成る程、折角なので発見を最大限に利用したいものの、普通の魔術師を雇うのは資金が厳しいと言う訳か。
・・・すっかり遺跡好きの変人仲間と歴史学会の人間達に認識されたようだな」
アレクが苦笑しながらシャルロからお茶を受け取った。
「別に断っても良いって魔術院は言っていたけど?」
シャルロが首を小さく傾けながら答える。
「まあ、ちょうどこちらも一段落したところだし、気分転換に良いんじゃないか?」
学院長を助けられたのは良かったが、流石にあれだけのプレッシャーの中での探し物は、精神的にも疲れた。
気楽な遺跡でのお手伝い、しかも一応お金貰ってなら、文句は無い。
「そうだね。南の方だから少し暖かいかも知れないし」
にこやかにクッキーを缶から取り出しながらシャルロが合意した。
そのまま缶を抱き込んでソファに座る。
・・・お茶は言わなくても出してくれるのに、菓子類は自分からはこちらに勧めてくれないのは、相変わらずだよなぁ。
今回は気楽な話になります。
次の更新は17日です。