313 星暦553年 緑の月 15日 でっち上げの容疑(13)
「金持ちなんて大嫌いだ」
ファルータ公爵家の本邸を改めて調べ始めてみたら・・・。
魔具が山ほどあった。
それを一つ一つ、偽装された書類が隠されていないか探すのはどう考えても明日までには終わりそうに無い。
こうなったら、どこにありそうかに当たりを付けて重点的に探していくしか無いな。
今日中に見つからなければ学院長が絶体絶命のピンチに陥るという訳では無いが、盗賊ギルドから『見つかりませんでした』という返事を受けて公爵が怪しむ前に、出来れば悪事の証拠は確保しておきたい。
もしかしたら『見つかりませんでした』と返したら、『学院長の執務室の床は調べたのか』とご丁寧に指摘が来るかも知れないが・・・それはそれで公爵が怪しまれる原因になりかねず、そのステップをこの用心深い男が取るかは疑問だ。
それに、『床を調べよ』と指摘されてあの偽造文書が見つかったら、今度はそれが出てきたと言う事実を元に軍の情報部が王都中にある『アイシャルヌ・ハートネットの名義で所有・貸し出されている家屋の捜索』を始めることになる。
学院長の所にあった偽造文書にしても、勝手に学院長の名義で貸し出された家屋にある文書にしても、よく調べれば偽造文書だと分かるかも知れないが、軍部がちゃんと調べるか微妙な所だし、どちらにしても学院長の名誉に傷が付くだろう。
皇太子に信頼されているというポジションは、学院長がそれを利用していないとしてもそれなりに学院長を蹴り落としてその地位に収まりたい政敵を作り出す。
つまり、そういった政敵が『本当にこれらの文書が偽造された物かどうかなんて分かった物では無い』と主張しまくったら、そいつらの言葉を信じる人間も一定数は生じるだろうから・・・学院長は常に『他国にアファル王国を売ったかもしれない』という疑惑に付きまとわれることになる。
出来ればそうなる前にこのでっち上げ容疑を叩き潰したい。
その為には、大元の依頼主であるファルータ公爵の悪事を暴く必要があるのだが・・・。
魔具が多すぎ!!!
取り敢えず、俺の心眼での捜索を一時的にでも免れることが出来るだけの偽装をしているなら、使用人の部屋に隠したりはしないだろう。
ということで、使用人の部屋やその他公爵が立ち入ったら違和感がある範囲は除外する。
とすると・・・。
寝室、書斎、居間といった所か。
取り敢えずは一番探す対象が少ない居間から調べたのだが、色々あった魔具を全て調べたものの書類は隠されていなかった。
と言うことで今度は書斎。
こちらには魔具は温度調整の魔具と湯沸かし器、照明といった物しか無かったのでそれらの確認は直ぐに終わったが・・・魔術本が大量にあった。
「何だって魔術師でも無いのにこんなに魔術本が置いてあるんだよ????」
イライラしながら一冊ずつ、魔術本に手に取って中身を確認する。
魔具ならば、じっくり視て紙の形をした魔力を纏った何かが無いかを探せば良かったのだが、魔術本は全部紙で出来ている。
なので一つ一つ開いて何も挟まれていないことを確認し、表紙の裏などを確認するのだが・・・。
時間がかかる。
普通の非魔術師の書斎だったら魔術本など置いてないし、置いてあったとしてもせいぜい2,3冊なのだが、何故かファルータ公爵の書斎には20冊以上の魔術本が置いてあった。
魔術本なんて、馬鹿高いのに!!!
魔術師だって、余程興味がある分野以外の魔術本は魔術院の図書室から借りて済ますんだぞ。
ただの公爵が何でこんなに持っているんだ!
ジリジリしながら探していたら、外に張っていた探知結界に反応があった。
「ちっ」
急いで手に持っていた魔術本を元の場所に戻し、窓から外に出て壁に取りつく。
否視の術は公爵家の敷地に入ったときから掛けてあるので壁に取り付いていても見つかる可能性は低いが、流石に同じ室内にいればばれる可能性が高い。
心眼で中を視ていたら、メイドが入ってきて書斎の掃除を始めた。
掃除がきっちししてあり、本に埃が溜まっていないお陰で俺が手に取ってもばれないのは有り難かったのだが、今日は掃除に来ないで欲しかったぜ。
「浮遊」
いい加減、煉瓦に捕まっていた指が痛くなってきた。
早くしてくれないと、公爵が帰ってきてしまうかもしれない。
まだ午後の13刻程度なので帰ってこないと思うが、なんと言っても相手は公爵なのだ。
普通の務め人の労働時間で外出しているとは限らない。
『早く終われ~』と念じながら待っていたら、やっとはたきを掛け終わり家具をさっと乾拭きしたメイドが、昨晩公爵が使ったらしきグラスを取り替えて出て行った。
ふう。
◆◆◆◆
流石、国家転覆を企てている(?)だけあって、ファルータ公爵の寝室には防御用の魔具が多数あった。
物理的攻撃防御や、解毒、精神系の魔術を弾くような結界等の魔具がまんべんなくあちこちに置いてある。
しかも、複数置くことで1つを壊してもまだ攻撃用魔具や剣で反撃できるようになっている。
すげえな。
枕元に武器を忍ばせる軍人は多いが、普通の貴族で枕元だけでなく、寝室中にあちこちナイフや剣を隠している貴族なんて初めて見たぜ。
ちょっと被害妄想の気もあるんじゃないか、この公爵??
それはともかく。
書斎にあった大量の魔術本からも国印は出てこなかったので、残るはこの部屋の魔具だ。
どうどうと設置されていたり、装飾品に紛れ込ませていたり、床下に隠されたりしている魔具を一つ一つ、調べていく。
が。
無い。
無いんだけど!!!!!
と言うことは、別邸か??
それとも使用人の部屋も調べる必要があるか・・・。
ため息をつきながらベッドに腰掛け、頭を抱えたらベッドサイドのテーブルに無造作に置いてある本が目に入った。
これも魔術本だ。
本当に、魔術が好きだな、この公爵。
一応確認のためにと手に取ってページをめくるが、何も挟まれてはいなかった。
前の表紙の裏を確認し、裏の表紙も確認しようとして・・・手が止った。
お?
この裏表紙、妙に厚いじゃん。
13刻は午後3時ぐらいです。
次の更新は2日です。